… 最初の恋 … 7






キッチンから聞こえる物音と美味しそうな匂いに目が覚めた。

「…あれ?」

…俺、テレビ見てなかったっけ?
それもソファーで。
何で、ベッドで寝てるんだろう。

そう思い、まだちゃんと働いてない頭で少しの間考えて出た答えに嬉しくなって
俺はベッドから飛び起きた。


恭介が帰って来てる。


慌てて駆け込んだキッチンにはワイシャツ姿のままで料理をしてる恭介がいた。

「起きたのか?」

俺に気付いてフライパンを動かす手は止めず振り返って微笑む。

「何、作ってんの?」

まるで犬みたいに料理をしてる恭介に纏わり付いて尋ねる。

「うん?キノコの和風パスタ。サラダもあるぞ」

「ラザニアは?」

「ちゃんとあるよ。ついでにもも苺も買ってきたからな」

「本当?」

恭介の挙げたメニューに嬉しくなって俺は飛び上がった。
だって、恭介の作ってるものは全部俺の好きなものばかりで特に恭介の作るラザニアは
最高に美味しい。

「俺、お皿並べるね」

「頼むよ」

何か手伝いたくて食器棚からお皿を取り出し、キッチンテーブルに並べようとした
俺はブランチを食べた時には感じなかった違和感を感じた。


あれ…?

そういえばチョコの入った紙袋がない。
ソファーにも無かったよね…?
キッチンにも無かったし。
どこにやったんだろう。

「ねぇ、チョコは?」

調理の終わったフライパンを手に持ってお皿を並べ終わった俺の横に来た恭介を
見上げ俺はチョコの行方を聞いた。

「うん?」

「チョコは?」

今更、隠してもしょうがないよね。

そう思いながら恭介を見詰める俺の横で恭介はパスタをお皿に盛り始めた。

「返してきたよ」

返してきたって…嘘。

「…嘘…」

まさか…
だって、あんなにあったのに?

「嘘をついてもしょうがないだろう?」

せっかく、貰ったのに…

「一つずつ返して来たよ」

返してきたことを何でもないことのようにサラッと言って恭介は空になった
フライパンをシンクに置いた後、サラダを持って戻って来た。

「…だって」

俺は嬉しいけど少し複雑な気持ちになってしまった。

「恋人が拗ねて大変だったからって説明したら皆、納得してくれたよ」

「俺、拗ねてないっ」

拗ねたっていう言葉にムキになって言い返した俺の頭に恭介の手が置かれる。

「お前以外の人間に貰う物なんて俺には何の意味もないんだよ」

恭介の言葉と微笑みに涙が出そうなほど嬉しくて俺は恭介に抱きついた。

「…ごめんなさい」

恭介はいつだって俺のことを考えてくれてる。
なのに、俺は。

「お前が謝ることはないよ。本当は大切な子がいるからってその場で
 断らなきゃいけなかったんだから」

「でも…」

嬉しいけど恭介に悪くて様子を窺うように見上げた俺の背中を恭介の手が優しく
撫でる。

「じゃあ、謝る代わりにご褒美をくれないか?」

「え…?」

優しく微笑みながら言われたご褒美の意味が分からなくて恭介を見詰める。

「そう言えばお帰りもまだだったな」

頬に軽く添えられる手にようやく俺はご褒美の意味が分かった。

「お帰りなさい」

それだけを言って少し背伸びをし、恭介の首に腕を回す。


いいよ。
ご褒美もお帰りも。
恭介が欲しいならいくらだってあげる。

だって、俺もずっと待ってたんだから、恭介のキスを。
朝からずっと。


優しく触れる唇に穏やかなキス。
うっとりするようなキスを受けながら俺は初めて恭介と会った日を思い出していた。







「初めまして、直君」



優しい穏やかな声に独特の笑顔。







恭介と付き合うようになって俺は気付いたことがある。
それはまだ、誰にも言ってない。
誰にも、恭介にも教えない。

きっと、俺は初めて会ったあの日に恭介に恋をしてた。

自分で気付かなかっただけで心のどこかでずっと恭介を意識してた。

だからあの日、泣いてる恭介を見た時、俺は嬉しかった。
恭介は傷付いて泣いてるのに俺は嬉しかった。
まるで恭介が俺だけのものになったみたいで嬉しかったんだ。






next