… 最初の恋 … 3






「それに子供じゃないから心配してる。だから、泣かないでくれ」

俺を宥めようと恭介は何時までも頭を撫でてくれてる。
子供のくせに子供扱いされたくないって言ってる自分が矛盾してることは俺が
一番分かってる。
でも、一度溢れ出した不安は簡単に止められなくて…

「嘘つき、子供扱いしてないなら、どうして…」

昂ぶった感情のまま、零れる涙を止めもしないで俺は恭介を見上げた。

「どうして、キスしかしてくれないの?なんで、俺とHしないのっ」

吐き捨てるように言った俺に恭介は驚いた顔をした。

「俺、恭介の恋人なんでしょ?俺、ちゃんと恭介の恋人になりたい。
 俺、恭介とHしたい…」

まるで駄々をこねる子供のような俺に恭介は困った顔をしてる。

「…直、セックスが全てじゃない」

恭介がフッと笑って俺の涙を親指で拭いてくれる。
Hが全部じゃないなんて俺だって分かってる。
でも、子供の俺にはそんな方法しか思い浮かばない。

恭介が俺だけのものだって実感したい。
恭介を繋ぎ止めておきたい。
恭介を近くに感じたい。


「恭介とHしたい。なんで他の人とはしてきたのに俺はダメなの?」

「…直」

困ったような恭介の顔も今の俺を止めることは出来ない。

「恭介は俺のものなんでしょ?だったら、ちゃんと俺のものになって」

「…どんなことをされるのか分かってるのか?」

俺の頬を恭介の手が撫でる。
男同士のHの仕方くらい俺だって知ってる。

「そんなことくらい俺だって知ってる」

「直、無理に俺に合わせようとしなくていい。俺は今のままのお前が
 好きなんだから」

違う、そんなことじゃない。
そんな言葉が欲しいんじゃない。

俺が欲しいのは…


「ちゃんと俺のものになって、俺だけのものになって」


心も身体も、恭介の全てが欲しい。


恭介が欲しい。


頬に置かれた恭介の手に自分の手を重ね、俺は恭介を見詰めた。

「直?」

「俺、恭介が欲しい。恭介を俺にちょうだい」

退かない俺に恭介は苦しそうな笑顔を浮かべた。

「…怖いんだ」

切なげな恭介の声が俺を包む。
こんな顔をした恭介を俺は初めて見た。

「何が怖いの?」

俺よりいろんなことを知ってて大人なのに。
そんな恭介が怖いって言ってる。

「…今ですら俺はお前に対する気持を止められない。なのに、一度でも
 お前を抱いてしまったら自分に歯止めが効かなくなりそうで怖い」

子供の俺には恭介の言ってる意味が分からない。

どうして?

なんで、止めなきゃいけないの?
こんなに好きなのに。
もう、誰にも止めることなんて出来ない。
恭介でもそんなことさせない。
止めさせない。


「歯止めなんていらない。どうして、止めなきゃいけないの?
 こんなに好きなのに、ねぇ、恭介をちょうだい」

重ねていた手を離し、両腕を恭介の首に回す。

「…直?」

戸惑っている恭介を無視して俺は背伸びをすると自分から恭介の唇に自分の唇を
重ねた。



上手なキスの仕方なんて知らない。
どうしたら恭介を喜ばせてあげられるのかも分からない。

でも…

でも、俺は抑えきれない気持ちのまま恭介の舌に自分の舌を絡めた。
最初は無反応だった恭介の舌が徐々に俺の口の中で意思をもって動き始める。

「…んっ…ぅん…っ」

キスだけでこんなになるなんて。
信じられない。
大人のキスって言いながら恭介が今までどれだけ俺に手加減していたかが手に
取るように分かる。
今、俺が恭介としてるのは本当の大人のキスでHに続くキスだ。
いつもしてるような心地良さに酔うようなキスじゃない、何処までも深くて神経に
電流が流れるような俺を煽るキス。

そのキスに煽られて身体の中心に鈍い熱が集まり始めた時、唇は突然、離された。

力の抜けた身体を恭介の腕に支えられながらさっきまで俺を翻弄していた恭介の
唇を見詰める。

「…お前には負けたよ」

その恭介の言葉に俺は視線を恭介に移した。
初めて見る欲情を滲ませた恭介の表情に背中をゾクッとしたものが走る。

「お前には一生、勝てそうにないな」

欲情を含んだ目で微笑みながら手を俺の項に滑らせる。
緩やかに指で項を撫でられる。
その恭介の俺を見詰める目と項を撫でる指の感触に俺は催眠術にでもかけられた
みたいに動けない。

「本当にお前は、人が必死で抑えてたことを」

項を撫でていた指は俺の耳の裏を掠め、力が抜けて今では恭介の首に
ぶら下がっているだけの俺の腕を掴んだ。

腕がそっと首から外され手首を掴まれる。

「…何?」

恭介の行動の意味が分からなくて問掛ける俺の手に恭介の唇が近付く。

「恭介?」

名前を呼び終ると同時に俺の左手の薬指の根元にチリッとした痛みが走った。

「…っ!」

軽く噛まれたことに気付くまで数秒かかった。

どうして…

たった、それだけのことなのに…
こんなに甘いんだろう。

初めて経験する甘い痛みに呆然としている俺を無視して恭介の唇は今度は俺の
額に降りてきた。
額から鼻の頭、そして、頬、ゆっくりと時間をかけた優しいキスは俺の耳元で
止まった。

「…ベッドに行こう」

耳元で少し擦れた恭介の声が聞こえる。
まるで愛撫だと思う。
恭介の声さえも今の俺には愛撫に思える。
何もかもが初めてのことですぐにでも甘い流れに溺れてしまいそうになる意識を
俺は辛うじて止めた。

「…俺、シャワー浴びたい」

恭介の肩に頭をつけ、呟く。

「分かった、ベッドで待ってるよ」

その言葉とともに俺は恭介に優しく抱き締められた。






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