… a refuge 2 … 5






ルームサービスは頼まなかった。
何故なら、食欲よりももっと満たしたい欲があったからだ。

その欲を満たす為に水音の止んだバスルームのドアを開ける。
濡れた空気を孕んだバスルームの中にはシャワーを浴び終えたばかりの梁川さんが裸で立っていた。

綺麗にバランス良く着いた筋肉の筋に沿って水滴が梁川さんの足下に落ちていく。
その光景に僕は見惚れ、息を飲む。

熱帯雨林の森の中に生きる野生の獣のようだと思った。
しなやかなのに獰猛で、荒々しいのに繊細で。
そこにいるだけで忘れかけた本能を揺さぶられる。

一匹の綺麗な獣がそこにいた。


「ルームサービスはどうした?」

バスルームにセッティングされていたタオルで乱暴に濡れた髪を拭いながら梁川さんが僕の前に来る。
少しからかいを含んだ声音は全てに気付いているからに思えた。

「飯はいいのか?」

返事を返さない僕に苛立った様子も見せず梁川さんはタオルを首にかける。
体の水滴はまだ拭われていない。
しなやかな濡れた体に欲望が加速する。

欲しい。

この体に組み敷かれ、貫ぬかれ、自分が人間だということを忘れるほどの悦楽に溺れたい。
深く奥に埋め込まれ、掻き回され、脳が蕩けるほどの快感を味わいたい。

眩暈を感じるほどの誘惑に目の前にある男らしい鎖骨に唇を寄せ、舌で雫を舐めとる。
濡れた舌の感覚に目を上げると梁川さんが訝しげな目で僕を見下ろしていた。

「梁川さん…」

上げた視線を梁川さんの唇に落とす。
囁くように名前を呼んで胸に手を滑らせる。
しっとりと濡れた胸に体が重なった時の汗ばんだ梁川さんの肌を思い出し、僕が小さな溜め息を洩らした、
時だった。

「…っ…!」

痛いくらいの力で腕を掴まれ、引き寄せられる。
引き寄せられた体はバスルームの壁に押しつけられ、僕の腕から離れた梁川さんの手はバスローブの
襟を荒々しく左右に引いた。

露になった素肌の胸の上を梁川さんの手が這う。
セクシャルな動きをする指は胸の引っ掛かりに狙いを定め、それを嬲る。
その刺激に喉を反らせた僕は梁川さんの舌打ちを聞いた。

「ん…っ…」

男らしい指が繊細に動き、僕の体に火を灯していく。
縋り付くように梁川さんの腕に指を伸ばすと耳元に梁川さんの息遣いを感じた。

「妙な誘い方を覚えやがって。いつから、そんなに貪欲になったんだ?」

からかいを含んだ声は少し掠れていた。

欲望に掠れた声は脳を愛撫し、指は胸を愛撫する。
心と体、両方への愛撫に体はもっと欲しいと強請る。

もっと強引に。
もっと傲慢に。
さらって欲しい。
征服して欲しい。
この体は梁川さんの為だけに、梁川さんを受け入れる為だけに存在していると教えて欲しい。


「梁川さんに初めて…抱かれた時から…っ」


貪欲…?

いくらでも。
求めて与えられるならいくらでも。


「梁川さん…」

胸だけでは足りないとざわめきだした体に腕を梁川さんの首に回す。
背伸びをし、キスを強請るとそれはすぐに叶えられた。





















「ん…っ…ふ…っ」


音が響くバスルームの中で僕は飢えた獣のように梁川さんの舌を貪った。
昂ぶる感情と体のままに鼻から洩れる甘い声も隠さずに。

お互いの舌を絡ませている間に梁川さんの手で引き上げられた左足を梁川さんの腰に自らの力で絡ませ、
昂ぶっていく一方の体の欲望のままに下腹部を梁川さんの腰に擦り付ける。
淫らに揺れる僕の腹部には張り詰めた梁川さん自身が当たっていた。

不安定な体勢に、何の準備もしていない後ろ。
無理なことは分かっているのに。
それでもすぐに梁川さんが欲しかった。

「梁川さん…っ」

唇が離れた隙に梁川さんの名前を呼ぶ。
僕の切羽詰った声に梁川さんは僕の腰をゆるりと撫でた。

「梁川さん…っ…早く…っ」


壊れてもいい。
今すぐに欲しい。

懇願するように梁川さんを見つめる。
だけど、そんな僕に梁川さんは苦笑を洩らした。

「馬鹿が、本番はベッドに行ってからだ…」

宥める口調で言う梁川さんの手が僕自身を掴む。

「あ…っ…ぁ…っ」

それだけの刺激にも僕は喉を反らし、嬌声を上げた。

「一回達け」

耳朶を噛まれ、腰をぐっと引き寄せられる。

「ん…っ…あぁ…っ」

僕の耳に舌を這わせている間も梁川さんの手は僕を高みに導く為に動いている。

「梁川さんは…っ…?」

梁川さんの愛撫に身を委せ、恥ずかしい姿をバスルームの灯りの下で晒しながらも辛うじて残っている
理性が自分だけでいいのかと囁く。

梁川さんにも感じて欲しい。
二人一緒に気持ち良くなりたい。

その思いをそのまま口にした僕の唇に梁川さんがキスを落とす。
そのキスの優しさに泣きそうになって梁川さんを見つめる。

「俺はお前の中で達く。ベッドに行ったら覚悟しとけ」

見つめた先にはいつものシニカルな笑顔を浮かべた梁川さんが僕を見下ろしていて。
その見慣れた顔に安堵した僕は梁川さんの背中に腕を回すと梁川さんが導き出した快楽だけを追う為に
目を閉じた。



































がっちりと腰を掴まれ、容赦なく打ち付けられる。

「は…っぁ…ん…梁川さんっ…もうっ」

赦して。

意識を手放しそうなほどの激しい快感にさっきから僕は啜り泣きながら何度もそう懇願していた。

「もう降参か?さっきはあんなに大胆に誘ったくせに」

淫らな声を止め処なく洩らし、梁川さんの肩に爪を立てた僕の耳元で梁川さんがからかうように囁く。

「お願いっ…もうっ…」

赦して…

2度高みに昇りつめた体に、与えられる快感の許容量はとっくに超えていた。
もう、気持ち良すぎて苦しい。
その証拠に腰から下がぐずくずに溶けてるような気がする。

熱くて。


「熱い…っ梁川さんっ…」

感じたままを伝える僕の足を更に梁川さんが抱え上げる。
その動作に僕は梁川さんも終わりが近いことを感じた。






























快楽を貪り尽して使い物にならなくなった僕の体を梁川さんはバスルームに運んでくれた。
梁川さんに支えられながら一緒にシャワーを浴びて、バスローブ姿で乱れていないベッドに横になった。
肌触りのいいシーツと温かいシャワー。
そして、何よりも温かい隣にいる梁川さんの体温に瞼が重くなっていく。

「明日、昼過ぎにここを出る。だから、ゆっくり寝ろ」

決して優しい口調ではなかったけれど。
髪を撫でる手は温かくて。

「はい…」

小さく返事を返し、目を閉じる。

大きな手は無骨で、柔らかさもない。
だけど、その手のぎこちない髪の撫で方にひどく安心した僕は深い眠りに落ちていった。






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