… 
love is … 1(真視点)










いつも僕ばかり送って貰っていいのかな…?
走る車の中で僕は、横でハンドルを握る武史さんの横顔をちらと見た。

「うん?」

顔は前を向いたままで問いかけられる。

「いつもごめんなさい。僕ばかり送って貰って…」

僕が武史さんのお父さんの設計事務所で働くようになってから半年、何故か月一回の
食事会の後、僕を送るのはいつも武史さんと決まってる。
本当は武史さんは、お酒が好きだって知ってる。
なのに食事会の時は、いつもウーロン茶ばかり。
きっと僕を送らなきゃいけないから我慢してるんだろうと思う。

「どうしたの?いきなり」

「…だって、武史さんに迷惑かけてるから…」

自分で言って少し落ち込んでしまう。

「真は、そんな事気にしなくていいの。それとも俺に送ってもらうの嫌?」

嫌な訳ないよ。
本当はすごく嬉しい。

「ううんっ」

慌てて否定する。

「良かった。俺は真、送るの嬉しいんだけど。二人きりになれるし、ね?」

一瞬だけ笑顔を向けられる。
それってどういう意味…?
僕、少しは期待していいの?
少し早くなった鼓動を感じながら僕は赤い顔を武史さんに見られないように窓の外を
眺める振りをした。















僕の家が近づいてくる。
もっと家が遠ければいいのに…。
そしたらもっと武史さんといられるのに。
でも、僕のそんな気持ちを無視して車はいつものように僕の家の近くの公園に止められた。

着いちゃったよ…。

「…ありがとうございました」

お礼を言ってシートベルトを外そうとした僕の手を武史さんの手が止めた。

「真、ちょっと時間ある?」

急にそんなに近付かれたらどうしていいか分からない。

「え…?」

近くなった武史さんの目が微笑んでる。
どうして?って聞こうと思って開きかけた唇は、武史さんの唇で塞がれた。


もしかして…

これって

キス?

えーっ!どうしてっ!?

なんで…

訳が分からなくて頭の中はパニック。

なのに…
武史さんの舌はそんなことお構いなしに僕の口の中に入ってくる。
歯列をなぞられ、優しく舌を絡めとられる。
僕だってキスの経験ぐらいはあるけど、こんなキスは初めてだった。

「…ふ…っ…」

鼻から抜けた声は自分のものとは思えない。

なんで…?

武史さんとキスしてるって武史さんの舌が僕の舌を愛撫してるって自覚した途端、
眩暈がした。



















ちゅっと軽い音をたてて武史さんの唇が離れて行く。

「驚いた?」

キスの余韻と突然の出来事に僕は返事すら出来なかった。

…キスされたんだよね…?僕。

武史さんに…

キスって…

キスーっ!

しかも、武史さんにあんな声聞かれちゃった…

あまりの恥ずかしさに俯きかけた僕の顎を武史さんの指が掬う。

「…真、俺の恋人にならない?」

恋人って…?
それって両想いってこと…?

「…嫌?」

武史さんの言葉に僕は慌てて首を横に振った。
嫌なわけ無い。
だって、ずっと武史さんの事、好きだった…

でも…

「…僕でいいの…?」

ようやく答えた僕に武史さんは微笑んだ。

「うーん、俺は真がいいんだけど」

嬉しすぎる武史さんの言葉に泣きそう。

「…真の返事、聞かせて」

返事って…
恥ずかったけど僕は勇気を振り絞った。

「…僕も…武史さんのこと…好き」

言い終ると同時に武史さんの唇が降りて来る。
さっきのキスとは違う触れるだけの優しいキスはすぐに終わり、唇が離れて行く。
あまりのあっけなさに武史さんの唇を目で追った僕の唇を武史さんの親指が撫でた。

「…ん…」

二度のキスで敏感になった唇を指で愛撫されて思わず声が洩れた。

「…真、もしかして俺の理性、試してる?」

武史さんが困ったように笑ってる。
試すって…
どういう意味?

「俺、好きな子のそんな可愛い声、聴いて冷静でいられる程、大人じゃ無いんだけど…」

武史さんの言葉の意味が解って心臓が壊れてしまうんじゃ無いかと思う位、ドキドキした。

「…だって…武史さんが」

恥ずかしくて視線を外した僕の頬を毅さんの唇がかすめる。

「…武史さん…?」

抱き締められると思ったのに…。
僕の予想に反して耳朶に甘い刺激が走った。

「…ん…っ」

「…真…」

耳元で少し掠れた武史さんの声が僕の名前を呼ぶ。
だめ…
そんな声で囁かれたらおかしくなっちゃう。

「…だめ」

「どうして?」

「…だって…ここ、車のなか…」

僕だって本当はもっと武史さんに触れていたい、でも…

「じゃあ、俺のマンションに行く?」

微笑んだ武史さんの瞳が僕の目を覗き込む。

「…え…?」

武史さんは返事に詰まった僕の右手を取ると指先にキスをした。
武史さんの俯いた顔にいつもは後ろに流してる前髪が落ちてその光景に心臓が又、高鳴る。
一緒に居たい…
切ない位、そう思った。

「真の事、抱き締めて眠りたいんだけど、駄目?」

武史さんに上目使いでそんな風に強請られて断れる人間なんていないと思う。
それに僕だって一緒に居たい。

「…僕も…武史さんと一緒に居たい…」

恥ずかしくて最後の方は殆ど声にならなかった。

「ありがとう」

武史さんは凄く優しい笑顔を浮かべてそう言うと車のシフトをドライブにした。



















「シャワー先に使ったから、真も入っておいで」

「…うん…」

いつも仕事で見慣れている顔とは違う顔が今、僕の目の前にある。
濡れた前髪がこんなに長いなんて初めて知った。
どんな姿を見てもかっこいいと思ってしまう。
大人でスマートで優しくて、片思いだと思っていたのに…

「どうかした?うん?」

見蕩れていた僕に武史さんの笑顔が降り注ぐ。

「ううん、何でもないっ」

慌てて俯く。
だって、そんな笑顔されたら心臓がもたないよ。

「…本当、真には参るな…」

武史さんの言葉に不安になって顔を上げるとそこには少し困ったような
武史さんの顔があった。

「そんな、可愛い顔されたら俺の心臓がもたないんだけど…」















「ま、待って…まって、武史さん、だめっ…」

まだ、シャワー浴びてないのに…
今触れられたら耐えらんない。
正気でいる自信ないよ。
不意に息が掛かるほど顔を寄せられて、キスをされると思って慌てる僕に武史さんが、くすっと
笑って囁く

「早く行っておいで?」

心臓がどきどきして、ほんとに止まってしまうんじゃないかと思う。
目眩のようなものを感じながら、僕は逃げるように浴室に飛び込んだ。














どうしよう。どうしよう…
一応、シャワー浴びたけど…
恥ずかしくて、とても寝室になんて行けない。
かれこれバスルームで何分迷っているか分からない。
そんな僕の耳に聞こえてきたのはバスルームの扉をノックする音だった。

「バスルームに立て篭もり?」

少し笑みを含んだ武史さんの声。

「だって…」

「風邪引くよ」

僕の事を心配してくれている言葉に僕は恐る恐るドアを開けた。
その途端、強い力で武史さんに引き寄せられ抱き締められる。

「えっ…!」

ずっと僕を待っていた武史さんの体はすっかり冷たくなっていた。
驚いて見上げた僕の瞳に武史さんの顔が近付く。

「俺も風邪ひくかも」

「ご、ごめんなさいっ」

慌てて謝る僕に武史さんは、にっこり微笑んで言った。

「真が温めてくれる?もちろんベッドで、ね?」


















「緊張してる?」

武史さんの少しハスキーな声が僕の耳をくすぐる。
それだけで僕の心臓は壊れてしまうんじゃないかと思う位、速くなる。
どうしよう、緊張しすぎて泣きそう…
助けを求めるように僕は武史さんの顔を見た。

「…真、そういう表情(かお)は、これから俺以外の人に見せちゃダメだよ」

武史さんの言ってる事がよく判らない。

「…どうして…?」

「俺が、やきもちやくから」

やきもち…武史さんが…?

「…う、そ…?」

だって武史さんはすごくかっこよくて、モテてて僕なんて相手にしてもらえないって思ってて…

「俺の言うこと信じられない?」

僕は頭を横に振った。

「ううん、だけど…」

「だけど?」

「だって…」

「だって?」

武史さんは僕の言葉を繰り返す。

「…武史さんはかっこいいから、僕なんて…」

僕の言葉に武史さんは軽く溜め息をつくと優しく微笑んだ。

「俺がどれだけ真を好きかこれからゆっくり教えてあげるね」




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