layla … 1






「直ももう今年で二十歳か」

夕暮れ時、沈みかけた太陽を横目に愛車のハンドルを操りながら俺は助手席にいる直に
話し掛けた。

「言い方がオヤジくさい」

そっけない返事に苦笑を洩らす。

「成人式、もうすぐだろう」

「そうだけどなんで?」

景色を眺めていた瞳を俺に移し直が聞いてくる。

「迎えに行ってやろうか会場まで。お祝いに真っ赤な薔薇二十本抱えて」

ふざけて言った俺の言葉に直は少し頬を染めそっぽを向いてしまった。

「女の子じゃないんだから迎えも薔薇もいらない。大体、花なんて形の残らない物なんか
 貰っても嬉しくない」

照れ隠しのぶっきらぼうな言い方に俺は喉元で笑った。

形の残らない物か。

そう言われれば確かに花は枯れれば終りだ。形は残らない。
直らしい考え方に俺は独り微笑んだ。

「ねぇ、今日はあの曲かけないの?」

突然、思い出したように直がこっちを向きながら言う。

「マンションにCDを忘れたんだ。聴きたいのか?」

俺の問いに直は少しがっかりした表情を浮かべる。

「…別に聴きたいってほどじゃないけど恭介がいつもかけてるから」

それだけを言って直は又、前を向いてしまった。



あの曲とはエリック・クラプトンの歌でかなり昔の曲だ。
曲名は『layla』。
ここ一年ほど俺はこの歌にはまっていて直を車に乗せた時は必ず『layla』の入っている
CDを流している。そして口ずさんでいる。

その歌だけを。



最初に『layla』をかけた時、直は無反応だった。
それをかけるまでも俺はよく洋楽をかけていたからその俺の好きな洋楽の中の一曲だとでも
思ったのだろう。
しかし、車に乗るたびに一曲だけ変わらず流れてくる歌に気付いた直は俺に聞いてきた。


「最近、その曲よくかけてるよね。恭介の好きな歌なの?」と。

そして俺は答えた。

「あぁ、まるで俺のような歌なんだ」と。

そう、まるで俺のことを歌っているような曲―

「ふーん、でもなんかカッコイイ曲だね」

歌詞の内容も知らずかっこいいという直に俺は微笑んだ。
layla』は決してかっこいい歌ではない。
ずる賢くて惨めな男の歌だ。
この歌はエリックが自分の友人目当てで自分に近付いてきた女に夢中になってその女の
為に女に振り向いて貰う為に作った歌だ。
自分の友人を好きな女に自分を見てくれと縋り付く惨めな男の歌。



Layla,you got me on my knees
‘レイラ、跪いて頼むよ,

Layla,I’m beggin,darlin,please
レイラ、ねぇダーリンお願いだから

Layla,darlin,wont you ease My worried mind
レイラ、ダーリンこの悩める心を楽にしてくれ’



若い頃、この歌を聞いた時は不甲斐ない男を馬鹿にしていた。
跪くなんて惨めなことをするなら奪えばいいと思った。
自分ならそうするだろうと。
しかし今、俺にはこの男の気持ちが理解出来る。

そう、跪いてでも手に入れたいものがある。
この歌の中の男は今の俺だ。
そして、俺にとっての『layla』は直だ。






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