… holiday … 4






いつもとは違う力強さで普段の紳士なオヤジからは考えられない少し乱暴な扱いでベッドに
抑え込まれたのは、オヤジの懇願に負けて、オヤジの手を縛るネクタイを外した時だった。

「な…にっ…?」

突然の衝撃に声を洩らしたオレをムシし、オヤジはさっきの仕返しとばかりにオレの両腕を
オレの頭の上で一つにまとめた。

ウソだろ…?

呆然とするオレの体をオヤジが揺さぶる。
自分で動いていた時とは違う比べモノにならない深い快感に頭と体が痺れていく。

「あ…ぁっ…やっ」

抑え込まれて、両手を不自由にされて、激しく突き上げられて。
オレは感じていた。
オヤジからは動物のオスの匂いが漂っていた。

あぁ、オレ、今、死んでもいいや。
このまま、オヤジに突っ込まれたまま。

なんて、バカみたいなことを思ったら涙が出てきた。

もうね、何もいらないよ。
アンタがいれば。
アンタがオレのこと、こんな風に抱いてくれたんだから。
飽きたら捨てていいよ。
恨んだりしないから。

感じ過ぎてからなのか、それとも変な感傷からか、どっちか分からないまま、オレは喘ぎながら
泣いた。

「直人…?」

いつもと違うオレの様子に気付き、オヤジが動きを止め、オレの名前を心配そうに呼ぶ。

「止めん…なって…」

「ごめん、辛かっただろう」


違う。
違うよ。
今更、紳士に戻るなよ。


「違う…違うから」

もっとオレを。
オレだけを求めてよ。

傷付いた笑顔を浮かべるオヤジの首に自由になった腕を絡ませ、オヤジの顔を引き寄せる。

「あんたの好きにしていいよ…あんたの好きにしてよ…もっと、メチャクチャにしてよ」


いいよ。
あんたのすることなら、全部、受け入れるよ。

軽くキスをした後、告げたオレの言葉にオヤジはあの日、オヤジが初めてオレの部屋に来た時と
同じ、寂しそうな笑顔を浮かべた。

なんで?
なんで、アンタはそんな顔すんの?


「…直人…直人」

寂しそうな笑顔のまま、オヤジは切ない声でオレの名前を二回読んでオレの体を強く抱き締めてきた。






























異国の街のホテルの豪華な部屋の広いベッドの上。
ひんやりとしたシーツにくるまってるオレの背中をオヤジは抱き締めてくれていた。
ホテルの部屋の中は日本とは違う少しスパイシーで、だけど、どこか懐かしい香りで満ちていた。

オレの手をオヤジの手は包んでいた。
オレの手を包むオヤジのでっかい手はオレをひどく安心させる。
そして、オヤジの手はでっかいくせに繊細だ。
オヤジもオレも何も話さない。
でも、部屋の空気は柔らかさで一杯で、オヤジの手は優しくオレの指をずっと撫でてくれてる。
オヤジは二人きりになるとすぐオレの手を握ってくる。


『実は僕は寂しがりやかもしれない。何時でもどこか少しでいいから直人と繋がっていたい』


なんで、手を握るのかと尋ねたオレにオヤジは苦笑いを浮かべながら、そう言った。

あぁ、アンタも寂しいんだね。

ウソの振りをしてホンネを洩らしたオヤジをオレは愛しいと思った。
人間なんて、みんな寂しいのかもしれない。
人それぞれ種類は違うけど。
なんかしらの寂しさを抱えてるのかもしれない。
それはきっと誰といても埋まらない。
でも、絶望的な寂しさじゃない。
きっと、誰かといることを幸せだと感じる為の寂しさ。

オレの背後でオヤジが体を起こす気配がする。
その気配にオヤジの方に体を向けたオレの手の甲にオヤジはそっとキスをしてきた。

こーいうとこオヤジ臭いんだよね。
手の甲にキスなんて、オレらはしないって。

「…だからさぁ…」

それにディープキスよりオレらの年代はこういうキスの方が照れるって。

初めて手の甲にキスされた時、オレは言葉を失くした。
今まで付き合ってきた人間で、そんなことをしてきた人間はいなかった。

お互い目が合って、フィーリングが合えば、その日に寝たこともあった。
セックスなんてそんなもんだろうって思ってた。
ううん。
面倒臭い、セックスも誰かにマジになるのも。
そんな風に思おうとしてた。
オヤジと付き合うまでは。


『ナニしてんの…アンタ』


初めて手の甲にキスをされた時、余りの照れ臭さに呆然とするオレにオヤジは渋い笑顔を浮かべた。


『親愛の情を込めた挨拶だよ』


まるで、何でもないようにサラッと言うオヤジにオレはどうしていいか分からなくなった。

親愛の情って…アンタ。


『アメリカでは普通だよ』


フツー…なのか?って、ここ日本だし。
アメリカじゃないし。


“直人は笑顔が可愛いね”

“僕が直人を守ってあげるよ”

“愛してるよ”

歯の浮くようなセリフをオヤジは渋い笑顔を浮かべてサラッと言う。
オレの手を握りながら。

でも、ドラマの中でしか聞いたことのない質量のないセリフはオヤジの口から洩れるとなんでか、
ひどく重量感のあるセリフに思えた。






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