… holiday … 3






自分の家に呼ぶってのはさぁ、つまりオッケーってことでしょ、普通。
煮るなり、焼くなり、好きにしてオレを食べて下さいってことでしょ。

なのに、オヤジはキスしかしてこなかった。
それも中学生みたいな触れるだけのキス。

思いっきり肩透かしにオレの頭の中はハテナマークで一杯になった。

普通、ヤルでしょ。
据え膳食わぬはオトコの恥って言葉もあるワケだし。


『あの、これだけ…?』


だから、オレは思わず聞いていた。


『十分だよ。僕にはね』


十分…ですか、オジサマ。
又、欲の少ない。


『君の思い通りにするつもりはないよ』


出た。
必殺、オヤジ得意の余裕のオジサマスマイル。
オレの思い通りってなんなのさ。


『ハァ?』


確か、あんた、君の欲しいモノは僕は全て与えられるって言いませんでしたか?
頭一杯のハテナマークとバカにされたような気がしたオレはオヤジを軽く睨んだ。


『ここで君を抱いたら、君が今まで付き合ってきた男達と同じになるだろう?
 君には悪いが、僕は君の付き合ってきた男達の一人になる気はないんだ』


あの、オレ、バカなんで、アナタの言葉の意味が分かりません。
それって、付き合わないってこと?って、多分、オレの顔は言ってたと思う。
オヤジは苦笑を洩らした。


『つまり、君のたった一人の男になりたいんだ。これまでの君と、これから先の
 君のね』


さっきまで苦笑だったのに、何故かオヤジは少し寂しそうな笑顔を浮かべた。


『意味は分からなくていいよ。詰まらない僕の自分勝手な我が儘だからね』


これから先ってことは付き合うのは付き合うのか、とオレはワケが分からないまま、納得した。

結局、オレはオヤジがあの夜、言った言葉の意味が分からなかった。
そして、未だに分からない。
オヤジのあの寂しそうな笑顔の意味も。




























シャワーだなんだとうるさいオヤジの両手をオレはオヤジのネクタイで縛った。
そして、オヤジ自身を口で愛撫した。

「直人、これを解いてくれないか?」

両手を縛られ、少し息を乱してるオヤジは最高にセクシーだ。

仕事が出来て、自信に溢れてて、社会的地位もあって、身長も高くて、顔もいい。
全身から“余裕”ってオーラを放ってるオトナのオトコで。

そして

そして、“君の欲しいモノは僕は全て与えられるよ”なんて、最強の口説き文句をサラっと
涼しい顔で言ってのける。

そんなオヤジがどう見ても、誰が見てもガキのオレの相手をしてる。
それがオレには理解出来ない。

だって、別にオレを選ばなくてもいいんじゃない?
他にもっといるでしょ?
アナタにお似合いのヒトが。
ううん、自分から動かなくても向こうから寄って来るでしょ?
そりゃ、もう、選ぶのに十年かかるくらい。
げんにオヤジは親会社や子会社の女の子達の憧れのマトだ。

大切にされてるって自信がないワケじゃない。
でも。
きっと、オヤジがオレに構うのは、物珍しいから。
今まで自分の周りにいないタイプだから。
だから、今はいいけど、その内きっとオヤジはオレに飽きる。
そう、飽きる。

ヤバイ。
ヤバイよ。
恋愛なんて、いつか終わりが来るもんだろ?

だから、いつも保険をかけてた。
一人ぼっちになるのはイヤだから、一つの恋愛が終わりそうになると、次の相手を見付けて。
しょうがねーじゃん、何も悲しくないって自分に言い聞せて。
だから、恋愛で泣いたことなんてないのに。

有り得ねーって。
オヤジに捨てられる時を想像するだけで、泣きそうになるなんて。
こんなオレは有り得ねー。
どうかしてる。
どうかしてるでしょ?

だから、そんな自分を認めたくなくてオレはピローに凭れてオレを見てるオヤジの前で、
オヤジを受け入れる準備を自分で始めた。
オヤジの視線を感じながら、オヤジの指を思い出しながら、ゆっくりと自分を昂ぶらせていく。

セックスは好きだ。
好きだとか、失いたくないとか、捨てられたらとか、余計なことなんて何も考えないで、本能の
まま動物に戻って、オヤジに揺さぶられながら、オヤジにしがみ付いてオヤジがくれる快感に
溺れてればいいから。
だから、早くオヤジが欲しい。
自分でも、どうかしてると思うくらいオレは感じた。

「…ん…っ…は…」

息が乱れ、体も乱れていく。

「直人…」

オヤジは複雑な顔でオレを見てる。

「これを解いてくれ…」

「…ダメ…だ…って…」

少しずつ。
少しずつ、体がオヤジを受け入れられるようになっていく。

「お願いだ。直人…」

「オレを…待たせた…バツだ…って…」

オレをアンタ無しじゃダメにしたバツだよ。

オヤジのお願いをムシし、完全にオヤジを受け入れられるようになった体にオヤジを埋め込んでいく。

「…ぁ…っん…っ」

凄まじい快感に声が洩れる。

元から声はガマンしない。
どれだけ、オレがオヤジとのセックスで感じてるかオヤジに教えてやりたいから。
散々、啼いて、恥ずかしい言葉を吐いて、しがみ付いて、オヤジと一緒に堕ちたいから。
どこまでも堕ちたいから。
オヤジを巻き込んで堕ちたいから。
バカなオレにはそんなことしかオヤジを繋ぎ止める方法が分からないから。

オヤジが全てオレの中に収まったことを確認してから、ゆっくりと腰を動かす。

「あ…ぁ…っ」

オヤジの肩を掴みながら、前後に腰を揺すり、啼き、全身でオヤジを繋ぎ止めてることを確認する。

「…っ…」

そんなオレにオヤジは声にならない声を洩らして。
仄かに明るいホテルの部屋の中で、オレとオヤジは獣に戻った。






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