… call you … 5






灯りの消えた暗い部屋はまるで今の俺の心みたいだった。
洋平のいない部屋のドアの前に膝を抱え、俺は座り込んでいた。
首に巻いたマフラーに鼻まで顔を埋め、ジッとドアの下を見つめる。
膝の上には手袋をした俺の手がある。
このマフラーも手袋も、俺の体を包んでくれてるダッフルコートも去年、洋平が
クリスマスプレゼントに買ってくれた。
クリスマスの飾り付けで綺麗になった街を二人で歩いて、色んなお店に入って、散々、
迷って。
プレゼントを買い終わった後は二人でご飯を食べて、映画を観た。

嬉しくて、楽しくて。
本当に嬉しくて

嬉しいのに…

いつか、洋平に本当に好きな人が出来たら俺の相手なんてしてくれないかもしれない。
そんなことをふと考えてしまって。
自然に流れてきた涙を映画のせいにして俺は泣いた。


『お前は泣き虫だな』


『だって…』


映画が終わってから、からかうように言って俺の頭をくしゃと撫でる洋平に俺は
拗ねた振りをした。

泣ける映画で良かった。
家に帰る洋平の車の中で俺はそう思った。























弱る心を無理に勇気づけて、1時間前にもう一度、洋平にかけた電話は最初と一緒で。
やっぱり、繋がらなかった。

俺の知らない誰かといるのかもしれない。
子供で我が侭な俺とは違って、大人で綺麗な人と。

いくら、コートを着てても、マフラーをしてても、手袋をしてても、心と一緒に体が
寒さに冷えていく。

それでも、もう俺は入れないかもしれない部屋のドアを俺は涙の溜った目で見つめた。
もしかしたら、俺がここでこうやって洋平を待ってること自体、もう、洋平には
迷惑かもしれない。
ふと頭に浮かんだ考えに我慢していた涙が溢れて、声を洩らしかけた、その時だった。
こっちに向かって来る人の足音が寒さで朦朧としていた俺の耳に聞こえた。

「千裕…?」

ずっと、会いたかった洋平に名前を呼ばれたのに俺は寒さのせいで体が震えて顔を
上げるだけで精一杯ですぐに返事が出来なかった。
俺の名前を呼んでからすぐにバタバタとこっちに洋平が走って来る。

「バカ!お前、いつからここにいるんだ!」

「…わかんない…」

「分からないじゃないだろ!」

ようやく返事をした俺の腕を洋平が掴んで俺を立たせる。

「いくら、コートを着てるからって、無茶しやがって!」

俺を怒鳴った洋平は腕を掴んでいた手を腰に回して俺の体を支え直すと片手でドアを
開けた。
もう入れないと思っていた部屋に引きずられるように押し込まれた俺はそのまま、
バスルームの前に連れて行かれた。

「唇まで、真っ青じゃないか!本当にお前は…!」

さっきよりは少し落ち着いた口調の洋平はコートを俺の体から取ると制服のボタンも
外し始めた。

「………」

ごめんなさいの一言を言いたいのに上手く口が開かなくて、俺は洋平にされるがまま、
バスルームの前で立ち尽くしていた。

コートの次は制服のジャケット、そして、ネクタイを外され、ワイシャツのボタンも
外される。
無言で俺の服を脱がしていく洋平に俺も黙って洋平の手を見つめていた。
やがて、ワイシャツのボタンも全て外され、残っていたアンダーシャツも脱がされ、
残っているのは制服のズボンだけになった時、ベルトを外そうとしていた洋平の手が
止まった。
それまで、淡々と俺の服を脱がしていた洋平の手が俺から急に離れ、洋平は何故か
ぎこちなく俺から視線を外した。

「…後は自分で出来るな?」

洋平は不機嫌そうな顔で俺を見ようともしない。

「……うん」

そんな洋平に俺は悲しくて泣きそうになったけど、これ以上、洋平に嫌われたくなくて
頷いた。

「…ゆっくり温まるんだぞ」

そう言って洋平は俺の頭をいつものようにくしゃと撫でると脱衣場から出て行く。
洋平の声はいつもみたいな優しい声に戻っていた。
だけど、視線は逸らされたままで。
そんな洋平の態度に俺はさっきとなにも変わらない不安な気持ちのままで身に付けてる物、
全部を脱ぐと泣きそうな気持ちでバスルームの扉を開けた。






next