… アマイドク … 4






「誕生日なんてどうでも良かった。鹿島と一緒にいれるなら。鹿島が側に
 いてくれたら、何もいらない」


泣いてるせいで震えている声で観月はそう言った。

誕生日を一緒に過ごそうと俺が言った時にも観月はそう言った。


「鹿島と一緒にいれるなら何もいらない」

と。


どうして、解ってやれなかったのだろう。

観月にとって誕生日プレゼントはオプションだった。
観月が欲しがっていたのは俺と一緒に過ごす誕生日だったのに。



























「ごめん、観月」

瞳を隠す両腕を優しく取り除き、額にキスをする。

涙で濡れた腕にも俺はキスをした。

「…俺…あの人に触られた時、気持ち悪くて…鹿島と付き合うまでそんなこと
 思ったことなかったのに…気持ち悪くて…」

「観月…」

観月は俺が初めてじゃない。

俺と出会った時、観月は初めて付き合った年上の男と別れたばかりで自暴自棄になっていた。
クラブから男に連れられ出ていく観月を俺は何回か見たことがある。
寂しかったんだろう。

そんなトラウマが有るからこそ観月は俺が自分に飽きたと思って自暴自棄になったのだろう。

でも、俺以外の男に触られた途端、俺以外の男に自分を触れさせたくないと思った。
俺以外の男に拒絶反応をおこした。
自分に触れていいのは俺だけだと。

それはどんな告白よりも俺を夢中にした。

観月は俺だけのものになった。

俺だけのものに。


「…俺のこと、イヤになった…?」

涙目で俺を見詰め、震える声で観月が言う。

「嫌になる訳ないだろ」

そう、嫌に、嫌いになれる訳がない。

だって、観月という甘い毒はもう既に俺の神経細胞まで侵していてその甘い毒なしでは俺は
禁断症状に苦しむのだから。

「……本当…?」

「本当だ。俺の方こそごめん、不安にさせて」

「俺、これからも鹿島の側にいていい?」


泣いたせいで少し紅くなった目。
噛み締めたせいで紅くなった唇。
肌蹴たシャツから覗く白い肌。


散々、振り回されて心を掻き乱されて、それでも行き着く感情は愛しさ。


まるで子供のような口調で俺の側にいたいと言う観月に全ては消え去った。
まるで情事の後のような姿でベッドに横たわりながら子供のように言う。

そのアンバランスな色香に心が乱れていく。


無邪気な観月の毒に侵されていく。



「当たり前だろ。お前は俺のものなんだから」

苦笑しながら返した俺に観月は両腕を伸ばしそれを俺の首に回すと俺に抱き付いてきた。

「…鹿島…鹿島、好き…好き…」



甘い。


何処までも甘い。


俺を侵す毒――




「…鹿島……しよう…」

少し身体を離し、上目使いに俺を見る。
甘い毒の誘惑に嫉妬で忘れていた禁断症状が俺を支配する。
二週間以上も観月を抱かなかったことは初めてで観月以上に俺は観月に飢えていたことを
思い知らされた。














































愛し合った名残で乱れているベッドの上でシーツを下半身にかけ、観月はベッドの上に
横たわっている。
観月の肌にはいつもなら付けない紅い跡がいくつか色付いていてそれはまるで俺の誕生石の
ルビーが観月の白い肌の上で輝いているみたいだった。
その美しさに観月の横でタバコを吸い終わった俺はそれに触れようと手を伸ばした。

まだ、少し汗ばんでいる肌の上のルビーを指で辿る。

「鹿島…」

その俺の行動に観月は俺の名前を呼ぶと俺の腕に抱きついてきた。

「…綺麗だな。ルビーみたいだ」

俺の感想に観月は微笑んだ。

「鹿島の誕生石だね」

観月の言った誕生石という言葉にジーンズのポケットに入れていた物の存在を思い出す。

「観月ちょっと待ってろ」

それだけを言い、腕に抱きついている観月をそっと離し、ベッドに腰掛け、ベッドの下に
落ちているジーンズを拾う。
ポケットに手を入れると肌触りのいいビロードの生地が俺の手に触れた。
そのビロードを取り出し掴むと俺は又、ベッドの上に身体を滑らせた。
身体をうつ伏せにし、観月は不思議そうに俺を見ている。

「観月、左手、出してみろ」

「なに?」

不思議そうな表情で観月が左手を出す。
俺はビロードの小さな袋からペアのプラチナのリングを出し、観月の誕生石のダイヤモンドが
指輪の内側に填め込まれている方を観月の薬指に填めた。

「…鹿島…これ」

ベッドのパネルの時計は既に午前零時を過ぎていて日付は四月五日になってしまった。

二時間遅れの誕生日プレゼント。


「渡すのが遅くなったけど。誕生日プレゼントだから」

「俺、もらっていいの?」

観月はまじまじと自分の左手の薬指を見詰めている。

「当たり前だろ。お前の為に買ったんだから」

そう、これを渡す為に観月と二週間以上も離れていたんだから。

「ありがとう…すごく、嬉しい」

「今はこんな物しか買えないけど」

天使のような微笑みを浮かべ俺を見詰める観月に言う。

「ううん。鹿島がくれる物なら何でも嬉しい。だって、鹿島が側にいてくれるだけでも
 嬉しいのに」


鹿島、大好き。


観月は続けてそう言うと左手を頭上にかざした。 






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