… アマイドク … 5







鹿島、大好き。



観月と付き合い始めてから何回、聞いたか分からない大好きという単語はそれでも俺を
簡単に幸福にする。

観月と出会って初めて俺はその単語が意味のある言葉だと知った。


「お前は前に四月生まれが嫌だって言ってたけど俺は観月には四月が一番似合ってると
 思ってる」

ベッドサイドのライトに指輪をかざし何時までも嬉しそうにそれを眺めている観月に告げる。

「ダイヤモンドには純潔って意味があるんだ」

話し続ける俺を観月は黙って見ている。

「お前にぴったりだろ?」


素直で真っ直ぐな為に些細なことで傷付く観月。

何時だって観月は真っ直ぐな瞳で俺を見詰め自分の心を素直に口にする。



鹿島、大好き。



感情を表に現すことが苦手な俺は時々その観月の真っ直ぐさに戸惑うけど今日だけは、
いや、これからは素直になりたいと思った。

「観月以上に大切なものなんて無いから」

微笑み真っ直ぐに伝える。

初めての素直な俺からの告白に観月は少し驚いた表情をした後、泣きそうな笑顔で微笑んだ。
そんな観月の頬を優しく撫でる。
しばらくそうしていると観月は何かを思い出しのかがばっと上体を起こした。

「そうだっ!鹿島の分。それ、俺に着けさせて」

強請る観月に俺のリングを渡し、俺は苦笑しながら左手を差し出した。

差し出した俺の左手の薬指に観月は厳かにリングを填める。
リングを填め終えた観月は唇をそっとそのリングに近付けると俺の指のリングにキスをした。

「指輪だけ?」

寝転がったまま右手で観月の頭を優しく引き寄せる。

「ううん…」

短い返事を返した観月の唇が俺の唇に触れる。
俺が求める前に甘い観月の舌が俺の舌に絡まる。

「…ん…っ」

舌を絡めあったまま甘い声を洩らす観月と体勢を入れ替え、観月をベッドに
横たえると俺はリングを嵌めた左手を観月の胸に這わせた。

観月の悦ぶところなんて分かり切ってる。
観月を悦ばせる為に動き始めた俺の指に観月の指が重なる。
俺の指の動きに声を抑えきれなくなったのかまだ、キスの途中の唇が離れる。

俺を見上げる観月の瞳は潤んでいた。


「……鹿島…」

俺を呼ぶ声さえももう、潤んでいる。

「又、したくなったのか?」

観月はコクンと頷く。
そんなことを聞く俺にももう余裕はなかった。

「二週間分しよう…」

俺のその言葉をきっかけに俺達は愛し合う為に再びベッドの上でもつれあった。






































無邪気に俺を振り回す観月。

無邪気に俺を誘う観月。

無邪気に俺の愛撫に乱れる観月。

全ての観月は今、俺だけのものだ。

























観月の昔の男に嫉妬がない訳じゃない。
でも、そんなことはもう、過去のことだ。
それに観月と付き合い始めて俺は観月を振ったその年上の男の気持ちが少し分かるような
気がした。

そう、これは観月を味わったことのある奴にしか解らない。

観月は甘い毒だ。
何処までも甘い毒。
その甘い毒に終わりは無い。
果ても無い。


どんどん蝕まれて侵されていく―


俺より年上の男は大人であるからこそ、その観月の果ての無い甘さが怖かったのだろう。
どんどん観月にのめり込んでいく自分が怖かったのだろう。

だから自分を見失う前に、中毒になる前に観月から離れた。


どこまでも甘い致死量ぎりぎりの毒。


でも、俺はそんな分別のある大人じゃない。
終りのない愛に怯え、果ての見えない未来に不安になるには俺はまだ、子供だ。
それに一生に一度、全てを奪われ相手がいなくなったら生きてはいけないような恋があっても
いいんじゃないかと思う。

そう、一生に一度、果てを奪われる恋。


























俺の身体に自分の身体をすり寄せ、安らかな寝息をたてている観月の寝顔を見詰める。

俺の禁断症状を満たした甘い毒は今、どんな夢を見ているのだろう。

肌蹴た肩にシーツを掛けてやり額にキスをする。

俺の腕の中で眠る甘い毒は一生、俺のものだ。

誰にも味わせてやらない。


侵されて、蝕まれて、奪われて、これから一生俺は致死量ぎりぎりの甘い毒を与えられ
悦びを味わうのだろう。






■おわり■