… アマイドク … 2






「…涼…?」

「なーにしてんのかな?」

突然現れた悪友の姿に驚きながらも自分の名前を口にした俺に涼はいつもと変わらない
楽しそうな笑顔を浮かべている。

「…涼って…もしかして…」

ここら辺で遊んでいる人間で涼の名前を知らない人間はいない。

この男もさすがに涼の名前は知っているらしい。
現にさっきまでふざけた笑いを浮かべていた顔は一瞬にして青ざめている。

「初めまして、涼でーす。ところで僕のお友達とナニしてんの?」

「い、涼さんの友達だなんてっ知らなくてっ…」

涼の笑顔に男はどもりながら答える。

「そーなんだ。じゃあ、紹介するね。この鹿島君は僕のお友達でーす。ヨロシクね」

微笑んだまま俺の腕を離すと涼は一旦、言葉を切った。

「で、お前ダレ?」

微笑みは変わらない。

楽しくて仕方ないといった笑顔。

でも、涼のこの笑顔を鵜呑みにしてはいけない。

キレればキレるほど笑う。

涼はそんな癖がある。
笑いながら地べたに這い蹲っている相手を殴り続ける。
そんな涼を俺は何回も見た事がある。

「すっすみませんっ!」

そんな涼の笑顔と言葉に男はそれだけを言うと一目散に逃げていった。

「あれ?遊んでくれないの?」

走り去る男の後ろ姿にそう声をかけると涼は俺を見た。

「…なんで止めた」

本当は礼を言うべきなんだろう。

しかし、男に振り上げた拳を止められ怒りのやり場を無くした俺はそう言っていた。

「バカかお前?見ろ。観月ちゃん怖がってるだろーが」

涼のその言葉に自分の後ろを振り返る。
俺から少し離れた場所で観月は涼の後輩に守られながらこっちを心配そうに見ている。

「………」


その観月の姿に俺は涼に返す言葉を無くした。

男を殴ることで頭が一杯だった俺は観月のことを忘れていた。

もし、男の仲間がいたら観月を危険な目に合わせていたかもしれないのに…


「何があったのか分かんねーけど観月ちゃんのこと大切にしてんのか?」

観月に聞こえないように小さな声で涼が言う。

それにも俺は答えられなかった。

「お前なぁ。いい加減にしろよ。俺はまだ、諦めてないんだからな。もし、
 観月ちゃん泣かすようなことしたら観月ちゃんが嫌がっても奪るからな」

「…観月は誰にも渡さない」

拳を握り締めその言葉だけを返す。


観月だけは誰にも譲れない。



「なんでこんなヤツがいいんだか。絶対、俺の方がイイ男なのになぁ」

涼は深い溜め息をつくと視線で後輩に観月を連れてくるように合図した。

「観月ちゃん大丈夫だった?このバカには僕が怒っといたからね」

誰にも向けないような優しい笑顔を浮かべ涼は観月を安心させる為に言う。

「…涼さんごめんなさい」

俺をちらっと見た後、謝る観月に俺の中に複雑な気持ちが湧いてくる。

「なんで観月ちゃんが謝るの?観月ちゃんは悪くないでしょ?」

「ううん…俺が」

「もし、観月ちゃんが悪いとしても僕は観月ちゃんの味方だからね。だから、
 こんなヤツと別れて僕と付き合わない?」

冗談めかして言いながらも横目でチラッと俺を見る涼の目は挑んでいる。
その挑むような目を俺は睨み返した。

「……俺…」

涼の言葉に困ったのだろう助けを求めるように観月が俺を見る。

ガキみたいだとは思った。

思ったけど。

あんなことのあった後でまだ気持ちの整理が着いていない俺はその観月の視線から目を
逸らしていた。

「……ごめんなさい、俺…」

「ウソ、ウソ。冗談だから。そんな困った顔しないで。ね?」

申し訳無さそうに呟く観月の頭を撫で涼は優しく言う。

その優しい涼の声に俺は苛付いた。

みっともない嫉妬に駆られる。


自分以外の男と親しげにしてることさえ許せないなんて終わってる。



「もう、大丈夫みたいだから行くね。バカに簡単に優しくしちゃダメだよ」

それだけを言うと涼は俺に見せ付けるように観月の額にキスをした。

「これは観月ちゃんを助けたお礼ということで」

驚いている観月に笑い掛けた涼は俺の横をすれ違うとき

「ごちそうさまでした」

と言い、繁華街の中に消えていった。


「…鹿島…」

涼の後ろ姿を睨み付けている俺に不安そうに観月が声を掛けてくる。

「俺…」

俺を見上げる不安げな瞳に何か言葉を掛けてやりたいと思った。

なのに…

まだ、収まりきってない感情がそれを邪魔する。

「…行くぞ」

優しい言葉ひとつ掛けず観月の手を掴む。
きっと、観月は俺が怒ってると思ってるんだろう。
俺にされるがままだ。

だから、俺はそのまま観月の手を握ったまま繁華街の中へと歩き出した。















































場所なんてどこでも良かった。

誰も俺以外の人間のいない所に観月を閉じ込めてしまいたい。

俺の頭にはそれしかなくて。

観月の手を掴んだまま俺は適当に目についたブティックホテルに入った。

ロビーにあるパネルで適当に部屋を選び、その部屋に向かう。

何も話さない俺に観月も何も話さない。

掴まれた手を振りほどこうともしないで観月は俺について来ている。

そんな観月の手を握ったまま少し歩いて辿りついた部屋のドアを開ける。

スニーカーを脱ぎベッドの置いてある部屋への扉を開ける。

開けた扉の先には淀んだ空気を孕んだ部屋の面積のほとんどをベッドが占めている部屋があった。






next
top