… 全ては貴方で満たされる … 3






三週間振りのバスルームでシャワーを浴びていつものように恭介が用意してくれた
バスローブを着て俺は恭介の待ってる寝室に向かった。

そっとドアを開けて部屋の中に入る。

何か声を掛けられると思ってたのに。
寝室は静かで俺を待ってるはずの恭介はベッドの上で横になっていた。

俺がシャワーを浴びてる間に雨はあがったみたいでカーテンを開けている窓からは少し
明るい夕陽に近い太陽の光が入り込んでいてベッドの上にいる恭介を照らしてる。

部屋に入った俺に反応しない恭介に俺はベッドに近付き、ベッドサイドに座って恭介を
覗き込んだ。

目を閉じてる恭介の端正な顔を光が照らしてる。
眩しい光じゃなくて夕陽に近い柔らかい光に照らされた恭介の顔は甘い雰囲気を醸し
出していて俺はその甘さに引き寄せられるように恭介の額に掛ってる髪を掻き上げた。

「…恭介、寝たの?」

それは独り言に近かった。

きっと、疲れてたんだろうと思う。
だって仕事が忙しかったのが三週間も会えなかった原因なんだから。

でも…

我が侭な俺は少し寂しかった。

せっかく、会えたのに。
もっと、構って欲しい。
閉じてる目を開けて俺を見て欲しい。

さっきはあんな言い方をしてしまったけど、俺だって恭介とHしたかった。
それは身体がどうこうっていうことじゃなくて、心の部分でだけど。

でも、眠ってしまったんならしょうがないよね。
それに明日だって一緒に居れるんだし。
俺は自分にそう言い聞かせて溜め息を一つついた。

手を静かに眠ってる恭介の頭の横につき、恭介の寝顔を眺める。
すごく穏やかな恭介の寝顔に俺は恭介の額にキスをしようと唇を恭介の額に近付けた。

が、その瞬間、俺の視界が反転した。

「えっ!?」

何が起こったのか分からなくてパニックになってる俺を笑顔の恭介が見下ろしてる。

これって


「…なんで?」

もしかしなくても俺って押し倒されてる?

「がっかりしたか?」


がっかりって…

恭介の楽しそうな笑顔に俺はやっと、何が起こったのか分かった。

騙された。


「寝た振りするなんて、信じらんないっ」


ずるい。
恭介はずるい。

俺は少し寂しかったのに。

なんで久し振りに会ったのにこんなにおちょくられなきゃいけないんだろう。
やっと、二人で過ごせるって、俺は嬉しかったのに。

「ばかっ!大っ嫌い!」

寝た振りをされたことが悔しくて俺はそう言って恭介の胸を手で押しやった。

「…直…」

俺は一生懸命押しやったのに。
恭介は俺の手首を優しく掴むと甘い声で俺の名前を呼んで掴んだ俺の手首をベッドに
押し付けた。

「恭介なんて嫌い」

俺は嫌いって言ったのに。

「…直」

その嫌いって言葉への返事は甘い声で呼ばれる自分の名前で。

「…嫌い」

その甘い声に俺の唯一の反撃の言葉は勢いを失っていく。

「…直」

甘さを増していく恭介の声に心が揺れる。

「…きらい…」

俺を見下ろす瞳は声に負けないくらい甘くて。
怒っていたことも忘れ、恭介に見惚れてしまった俺の額にこめかみに瞼に恭介の唇が
触れる。

その恭介の優しいキスはまるで魔法みたいで、俺の心の身体の力を簡単に奪っていった。

「直…」

からかわれたことを謝られた訳じゃない。
愛してるって言われてもない。
ただ、見詰められて名前を呼ばれただけなのに。
その恭介の声に瞳に俺の怒りは簡単に姿を消して、恭介に触れたいって思いだけが俺の
心を支配していく。
その思いに気付いて欲しくて恭介をじっと見詰めると恭介は困ったように笑った。

「溺れるっていう言葉の意味をこの歳になって知るなんてな」

「…溺れる?」

「あぁ…」

俺の手首を掴んでた手は俺の手首を離し、俺の髪を優しく撫でた。

恭介は何を言ってるんだろう。
子供の俺は時々、恭介の言ってることの意味が分からない時がある。


「…どういう意味?」

恭介を見上げ、恭介が俺にしたように今度は俺が恭介の髪を掻き上げ、恭介の言葉の
意味を聞く。

俺は言葉の意味を知りたかったのに。
俺の質問への恭介の返事は言葉じゃなくて優しいキスだった。




































触れるだけだったキスはいつの間にかHに続く深いキスに変わった。
舌を絡め取られて久振りの恭介との深いキスに夢中になってる間にバスローブが
脱がされ俺の肌を恭介の手が滑る。
その心地良さに酔いそうになりながらうっすらと目を開けると恭介の唇が静かに離れた。

開けた目で恭介を見詰める。
俺と目が合うと恭介は目を細めフッと笑うと唇を俺の耳に移動させた。

「…ぁ…っ」

耳を甘噛みされ声が自然に洩れる。
初めてのHからHは数えるほどしかしてない。
なのに恭介はもう、俺がどこが弱いのかを知っていて執拗にそこを愛してくる。

いつもは俺の言うことを聞いてくれるくせにHの最中の恭介は俺の言うことを聞いてくれない。

今だって裸なのは俺だけで恭介は服を着てる。
しかも部屋は夕陽で溢れててそんな明るい部屋で服を着てる恭介に愛されてる状況を
考えただけで俺は恥ずかしくて消えてなくなりたいような気持ちになった。

俺ばっかり無我夢中で悔しい。
恥ずかしい。

でも…

いつだってそんなことは恭介に愛されてる内に考えられなくなっていく。
そして、最初は恥ずかしくて我慢してる声も淫らな格好も自然に受け入れてる俺がいる。

身体と頭がとろとろになるまで愛されて、ただ、恭介を感じたくて恭介に縋りつく俺が
いる。


“溺れる”


恭介がさっき言った言葉が俺の頭に蘇る。

俺を焦らすようにゆっくりと動く俺自身に絡まった恭介の指に快感を引きずり出されながら
“溺れる”っていうのはこういうことを言うのかもしれないと俺は思った。






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