… sweet …










「え?出張、三週間も?!」

週末、マンションに泊まりに来た薫と食事を終え、ソファで寛いでいる時に告げた出張の
報告に今まで楽しそうだった飴色の大きな瞳に涙が滲んだ。

「…三週間も修(しゅう)に会えない…」

三週間会えないだけなのに涙まで浮かべる年下の恋人がいじらしくて胸元に抱き寄せる。

「なるべく早く帰れるようにするから」

頭を優しく撫でながら額に口付ける。

「本当?」

上目使いに自分を見つめる瞳に苦笑を漏らす。


骨抜きにされると言うのはまさにこういう事を言うのだろう。

俺はこの十二歳も年下の恋人に情けない位、ハマっていた。


「毎日、電話するから」

愛しさに負けてつい甘やかしてしまう。

「修、仕事だから電話は我慢する。修が大丈夫な時にかけてきて。」

以外に物分かりの良い返事に少し寂しさを感じながらも優しく微笑んでやる。

「電話は我慢するから…だから」

少し目を伏せて続きを言おうかどうしようか迷っている薫に優しく話の続きを促してやる。

「だから?」

俺の言葉に意を決したのか薫は顔を上げ、大きな瞳を真っ直ぐ俺に向けてきた。

「僕以外の人に触らないで…約束して」

いつに無く真剣な恋人の可愛いお願いに頬が緩むのを止められない。

目の前の可愛い恋人は知っているのだろうか。
他の人間など目に入らない位、俺が自分に夢中だと言うことを…

「そうだな、じゃあ、変な気を起こさない様に今日は薫にたっぷりサービスして
 貰わないとな」

大人同士ならなんて事の無い睦言に大人の遣り取りに慣れていない年下の恋人は頬を
染めながら消え入りそうな小さな声で


「…いいよ」と呟いた。























ようやく最近、慣れてきた大人のキスを繰り返しながら薫の気持いい場所を手で探る。
俺が与える快感に戸惑いながらも小さな体で反応し、乱れていく姿が愛しい。
薫を傷付けないように、俺とのセックスを気持良いものだと分からせる為に年下の恋人の
体を気遣いながらするセックスは大人の俺には容易な事だった。

筈なのに…

最近、情事の最中にほんの一瞬、垣間見える薫の淫猥さに我を忘れ、夢中で薫を
貧っている時がある。

自分が拓いた体に自分が溺れていく――


「…しゅ…う…っ」

快感に翻弄されながら俺を求めて空を彷徨う腕を捕まえ、自分の首に廻す。

「俺ならここにいるから…」

深く繋がったまま、薫を抱き締める。
俺に抱き締められ安心したのか薫は潤んだ瞳を嬉しそうに細め

「‥しゅう…好き…だ‥いすき…」

と何度も繰り返した。


























「室長の恋人ってきっと可愛い人なんでしょうね」

出張一日目はまずまずの成果だった。
相手方の感触も良く、この調子なら三週間もかからないかもしれないと思いながらホテルに
戻り、シャワーを済ませ出張に同行している岸本と部屋で明日の打合わせを始めようとした
やさきの岸本の発言に書類を眺めていた視線を岸本に移す。

「どうしたんだ、いきなり」

「室長、気付いて無いんですか。ここ」

意味有りげな笑顔を浮かべ、自分の鎖骨の辺りを指差しながら手鏡を手渡してくる岸本から
鏡を受取り、岸本が指差している辺りを映す。
と、そこにあったのは紛れもないキスマークだった。

「室長、モテるから心配だったんでしょうね。その位置だってシャツ着てネクタイ締めたら
 分からないけど浮気しようとして脱いだらバッチリ、分かる場所でしょ?」

岸本の言う通り、それが付いている場所はシャツを着ていれば分からないが脱いだら
分かる場所だった。

どこでこんな知恵をつけてきたのだろう。

あまりにも子供っぽい独占欲の主張が薫らしくて笑いが漏れた。

「室長、愛されてますね」

羨ましいと言葉を続けた岸本に微笑み返す。

「…惚れた者敗けと言うやつだな。愛しくて仕方が無い、夢中なのは私の方だ」

苦笑しながら言う俺に岸本は肩を窄め、笑いながら言った。

「それじゃあ、室長の可愛い人の為にも早く帰れるように頑張ります」

大袈裟に袖をまくる仕草をする岸本に二人して笑い合う。

「ああ、頼むよ」

俺の言葉を合図に中断していた打合せは再開された。
























「三週間か…」

独りになった部屋で煙草に火を点け、呟く。
二十九才にもなって恋をするとは思わなかった。
自分の恋愛感を百八十度変えるような恋を。

ホテルの窓から見えるビル達の光はまるで星空みたいでこの場に薫がいたらさぞかし
喜んだだろうと思う。
何を見ても薫がいればと思う自分に三週間会えなくて寂しいのは自分の方かもしれないと思い、
俺は苦笑を洩らした。






■おわり■




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