… 
special day …






「ごめんなさい、クリスマスはいつも家族で過ごしてて…」

クリスマスの予定を尋ねた俺に真は申し訳なさそうにそう言った。

「それなら仕方ないね」

優しく微笑み俺は真を抱きしめた。

「ごめんなさい」

俺の腕の中で謝る真の髪を何度も梳いてやる。

「真が謝ることないよ。別にクリスマスしか会えない訳じゃないんだし」

そう、毎日会えるんだから。と真に言いながら俺は自分を納得させた。

「…でも」
と口篭る真の唇に軽いキスを落とす。

「じゃあ、クリスマスの代わりに今日、泊まってくれる?」

車は既に真の家の近くの公園に止められているのにまだ真を自分のマンションに連れて帰ることを
諦めていない自分が可笑しい。
本当、俺は自分自身に呆れてる。
毎日、事務所で顔を合わせて週末には一日中一緒にいる。
なのにまだ足りないのかと尋ねる冷静な自分に独占欲丸出しのもう一人の自分が即答する。

まだ、足りない、と。

しかし、今回は冷静な自分が勝った。
余りにも縛りつけるとこの俺の宝物は逃げてしまうかもしれない。
一緒にいられないことより失うことの方が辛い。
失うと考えただけで全てを壊しそうだ。
だから、俺は嘘をつく。
大人の顔をして。


「ごめん、冗談だよ。ちょっと言ってみただけだから」


嘘ぐらいいくらでもつくから。
だから、いなくならないで。
嫌いにならないで。


しかし、そんな俺の嘘に返ってきたのは寂しげな声だった。

「…冗談だったの?」

真っ直ぐに俺を見つめる揺れる瞳に心が締め付けられる。

「…ごめんなさい…そうだよね。毎日、会ってるのに…まだ一緒にいたいなんて」

寂しげに微笑み瞳を伏せる。

俺は馬鹿だ。ほらみろ、つまらない事で真を不安にして。

果てが無い―

そんな想いがある事を俺は真を好きになって知った。
毎日、毎日好きになる。
昨日より今日、今日より明日。
毎日、真に恋をする。

「…ごめん」

真を俺で埋める筈なのに、気が付けば俺が真で埋まってる。
隙間なんてどこにも無い。
こんなにも真だらけでもし、真がいなくなったら俺はどうなるのだろう。
そんな考えを振り払うように真を抱き締める。

「ごめん、本当は連れて帰りたい」

俺の言葉に安心したように真が微笑む。

「良かった。あんまり僕が一緒にいたがるから武史さんが嫌がってるのかと思って」

ほら、又真の優しさに救われる。
こんなに自分の事しか考えていない俺なのに真はいつだって優しく包んでくれる。
キリストでもサンタでも無い。
俺を幸せにしてくれるのは目の前にいる真だけだ。

「真と一緒に眠りたい。真がいないと眠れない」

「まるで僕、武史さんの抱き枕みたいだね」

俺の告白に真はクスクス笑っている。
俺もそれにつられて笑う。
こんな何気ない事に幸せを感じる。
幸せ過ぎて泣きそうになる。
元からクリスマスなんて興味はない。
誰かと祝いたいなんて思ったこともない。
付き合っていた人間にせがまれたことはあったが面倒くさくて断ってきた。
大体、何故その日にレストランを予約したりプレゼントを用意しなければいけないのか分からない。

下らない。

そう思っていたのに…

真を手に入れて迎える初めてのクリスマスに一月も前からプレゼントを何にしようか散々悩み、挙げ句の
果てに今まで毛嫌していたペアの物を知り合いのジュエリーショップにオーダーした俺がいる。
先輩の広瀬さんは俺のその行動に

「クリスマスは絶対、雪の代わりに象が降る」

と真面目な顔で言っていた。

何故、象なのかは分からないが。

そのペアのネックレスは昨日、受取りに行って今はマンションにある。
オーダーメイドで作ったそれをデザインしたのは俺でそれは世界に二つしかない。
世界で俺と真しか持っていない。
本当はクリスマスに渡そうと思ってたがもう、クリスマスなんてどうでもいい。
そんなことにこだわらなくても真が側にいる限り、俺にとっては毎日が特別な日なんだから。
シートベルトを締め直しチェンジレバーをドライブにする。
サイドブレーキを下ろした後、俺は真の指に自分の指を絡ませ言った。

「真、渡したい物があるんだ」






■おわり■