… 追うモノ …










自分の性癖を認識して12年。
何故だか付き合う男はみんなろくでもない男ばかりだった。
特にろくでもなかったのは大学3年の時に付き合った土居。


『必ず返すから。頼むよ。な?藤井』


大学にも来ず、奴がふらふら遊び回っていたのは噂で知っていた。


『愛してるから。なぁ』


今、考えれば、なんであんな奴にハマっていたのか分からない。
金にだらしなくて女関係にだらしなくて。
だけど、あの時はそんなアイツでも好きだった。


『マジ、ありがとな。ホント助かったよ』


バイトで貯めた30万。
俺にとってはなけなしの金だった。
そのなけなしの30万を貸して1週間後、奴は消えた。
そして、奴が消えてから2日後、俺のアパートには奴よりももっとろくでもない上に質の
悪い男が現れた。





















「よ、朋(とも)ちゃん、お帰り」

仕事が終わり大学の時から住み続けて7年になるボロアパートに帰り着き玄関ドアを開ける。
開けた扉の向こうには、このボロアパートの部屋には似つかわしくない俺の給料3ヶ月分は
簡単にするだろうスーツを着崩した男がいた。

「…何回お願いしたらいいんですか。朋ちゃんは止めて下さい。それと勝手に
 アパートに入らないで下さい」

玄関で靴を脱ぎ、中に入る。

「なんで?俺と朋ちゃんの中じゃん、冷たいなぁ。それにナニ、カリカリしてんの?
 あ、もしかして朋ちゃん、今日、生理?」

「生理なんてあるわけないでしょう」

4帖の台所とユニットバス、そして6帖の1部屋しかないアパートの台所を抜け、男が勝手に
寛いでいる部屋に入り、ハンガーにスーツジャケットを掛ける。

「ふーん、生理じゃないんだ」

すると男は俺の後ろで立ち上がり俺を抱き締めてきた。

「ちょっ…何するんですかっ」

「ナニって、生理じゃないんだよね?」

「だからっ、男に生理なんてあるわけないでしょうっ」

男の手は既に俺のワイシャツのボタンを外し始めている。
俺はその手の動きを止めようと男の手首を掴む、と男は俺のケツに硬くなり始めた男の
昂ぶりを押し付け、俺の耳を噛んできた。


















男―八代豪(やしろごう)と初めて会ったのは土居が消えて2日後だった。


『土居、ここに来てない?』


アパートの扉を叩く音に扉を開けると開けた扉の向こうには八代がいた。
ホスト風の出で立ちに甘い顔立ち。
だけど目だけは違っていた。

土居の借金を回収する為に土居を捜していると八代は言った。


『飛んじゃったんだよねぇ。しかも兄貴のオンナと一緒にさぁ、だから土居が
 寄りそうな所当たってるんだけど』


借金の回収。
飛んだ。
兄貴のオンナ。

その3つの言葉で八代が普通の人間じゃないことが分かった。
あの八代との出会いから5年。
その5年の間に八代の着るスーツは段々高くなっていき俺は大学を卒業し就職した。
土居の代わりに八代が俺の前に現れてから5年。
土居から連絡はない。
いや、元々、土居にとって俺なんて大勢いたセフレの中の1人ぐらいのものだったんだろうから
土居から俺に連絡なんてあるわけない。
なのに、八代は未だに俺の所にやってくる。

そう、未だに八代は来る。

















「は…っ…んっ…」

狭いユニットバスの中で散々指で俺を弄んだくせにそれだけでは飽き足りないらしく八代は
狭いベッドに俺を運ぶと容赦なく腰を進めてきた。

「朋ちゃん、土居から連絡ある?」

ゆっくりと腰を動かす八代の質問に俺は頭を横に振る。

「ふーん、俺に嘘なんてついてないよね?」

嘘なんてつくわけがない。

「嘘…なんて…っ」

嘘なんてつかなくても土居はもう俺のことなんて忘れてるはずだ。
だけど自業自得とはいえ、一時でも好きだった土居が捕まった後のことが気にならないわけはなくて。

「土居は…見付かったら…っ…どうな…っ…」

バカな質問だと思いながらも俺は口にしていた。

「ナニ?朋ちゃん、気になんの?まさか、まだ土居のこと忘れてないとか?」

「ちがっ…」

違うという俺の言葉に八代は口の端を上げ笑う。

「朋ちゃんは知らない方がいいと思うよ」


“朋ちゃんは知らない方がいいと言うよ”

八代がそう言うということは俺に教える気がないということだ。
だから俺は八代が八代のいる組で今、どの位置にいるのか、オンナがいるのか、何も知らない。
だけど5年前、自分で車を運転して俺の所に来ていた八代が今は運転手付きの車でここに
来ていることで八代が組で上に登ったことは感じていた。
でも、いまだによく分からないのは八代が何故、まだ土居を追っているのかということだ。
土居が姿を消してもう5年。
もう5年だ。
そう、もう5年も経っているのに運転手付きにまでなった八代が土居を追うような下っ端が
する仕事をするだろうか。
もし、本当にまだ土居を追っているとしたら金だけじゃなく、他に理由があるはずだ。
そう、下っ端がするような仕事を自分でするほどの理由が。

「朋ちゃんは土居のことなんか考えなくていいよ。朋ちゃんは俺に溺れてれば
 いいんじゃない?」

ゆっくりとねちっこかった八代の腰の動きが浅いものに変わる。
風呂場で中途半端に煽られた俺自身に絡まっていた八代の指はさっきまで俺を高みに導いていたのに
抜き差しが浅くなるとともに動きを止め、その指の代わりに俺の胸に八代の舌が絡まった。

「ん…っ」

じっくりと八代の舌が胸を舐める。

「朋ちゃん、気持ちいい?」

俺を見上げる八代の目は笑っている。
そして、その楽しそうな八代の目に俺は焦らされていると知った。

「は…っ…」

欲しいのは胸なんかじゃなかった。

「ちが…っ…」


欲しいのは、もっと…

胸にばかり執着する八代に焦れて自分の手を自分自身に伸ばす。
だけど俺の手は俺自身に触れる前に八代に掴まれた。

「朋ちゃん、やらしいなぁ。そんなにイきたい?」

誰のせいなんだと思うのに。
欲望には勝てなくて俺は頷いた。

「なぁ、イかせて下さいって言ってみて?そしたら、イかせて上げるよ」

土居の名前が出ると八代は必ず、こんな意地悪をしてくる。

「いや…だっ…」

イきたい。
早くイきたい。

だけど、八代の要求は理不尽で俺はそれを拒否した。

「ナニ?朋ちゃん、このままでいいわけ?俺、動かないよ?」

胸を嬲りながら八代が楽しそうに言う。
身体は限界で早く弾けたいと俺を唆す。
だけど、ひとかけらのプライドに俺は唇を噛み締めた。

「朋ちゃん、ズルいよなぁ。いっつもそうだもんなぁ、結局、朋ちゃんには
 勝てないんだよねぇ。まぁ、それが楽しいんだけどさ」

八代は胸から顔を上げると独り言のようにそう言い、楽しそうに笑う。

「イきたいんならキスして。朋ちゃんから俺にキスしてよ」

八代なりの妥協案なんだろう。
八代は顔を俺に近付けてくる。
その近付いた八代の整った顔の首に俺は左腕を回すと八代の顔を引き寄せ唇に噛みついた。

「…ん…っ…っ…」

俺の舌に絡まる八代の舌と激しい腰使い。
苦しくなる心臓。


“兄貴のオンナと一緒に”


5年前、八代はそう言った。

“兄貴のオンナ”と。

だけど

それが、もし、“兄貴”のじゃなく、“八代”のだったら…

土居と一緒に逃げたのが八代のオンナだったら?

八代が土居を未だに追う理由になる。
そして俺を抱く理由も。

早くなる八代の動きについていけず俺が弾ける。
弾けた余韻に震える俺の身体を抱き締めた八代はまだ終わりそうにない。
俺を抉る八代に身体以上に痛む心に俺は気付かない振りをした。






■おわり■




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