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layla … 11






冬にしては暖かい光が車の中に差し込んでいる。
成人式の会場から少し離れた人通りの少ない場所に俺は車を停めている。
相変わらず俺の車の中は『layla』で満たされている。













「じゃあ、俺、行くね」

助手席の直は車から降りる為にシートベルトを外した。

「直」

俺の問掛けに直は眉間に皺を寄せる。

「もう、しつこい。分かってるよ、遅くなったら電話すること。
 飲み過ぎないこと。でしょ?」

成人式の会場に向かう車の中で散々、言い聞かせた俺の言葉を直は復唱する。

「それと」

「何?まだ、あるの?」

直は呆れたといった風な視線を俺に向けてきた。

「イイ男に誘われても付いていくなよ」

恋人という関係になって一週間、俺は自分でも信じられないほど直にメロメロで
早くも直の尻に敷かれていた。

「…ばか…」

微笑む俺に直は頬を染め視線を外す。

「…恭介以上にイイ男なんて滅多にいないじゃん」

俯いたまま、耳まで真っ赤にして小さな声でぶっきらぼうに俺に返す。
そんな直に俺は笑みを深くした。

本当に可愛くて仕方がない。

我が侭で意地っ張りなくせに寂しがり屋で照れ屋で時々、こちらが驚くほどの艶で
俺を魅了する。

今だって、あんな台詞をこんな顔で俺の前で言うなんて。

犯罪だな、と心の中で呟きながら俯いたままの直の顎を指で持ち上げる。

「…なに…?」

俺は不思議そうに問掛ける直の声と瞳を無視して触れるだけのキスをした。

「…ちょっ、何してんのっ」

さっき以上に赤くなった顔で直は抗議の声を上げた。

「何ってキスだけど」

「…信じらんないっ、人に見られたらどうすんのっ」

「別に俺は構わないよ」

「キスなんて人に見せるもんじゃないっ」

真っ赤な顔でどもりながら抗議する姿が余りにも可愛くて自然と笑みが漏れる。

「俺の話、聞いてんのっ」

全然、反省の色を見せない俺を直は軽く睨んだ。

「もう、いい。俺、行くから」

どうやら、機嫌を損ねてしまったらしい。
直はそれだけを言うと俺に背を向け助手席のドアに手をかけた。

「直…」

「何っ?」

不機嫌な声の返事。

「おめでとう、愛してるよ」

不機嫌な声への俺の返事は心からの告白。

俺の告白に直の身体がピクッと反応しドアを開けようとしている手の動きが止まる。

「…」

「直は?」

「…」

「直は?」

「…俺も…」

「俺も?」

「…………好き…」

たっぷりの間の後に告げられたのは俺を天国に誘う道標の台詞。

直の表情は見えなかったがそんなものは見なくても手に取るように分かる。

本当に愛しくて仕方がない。

きっと、今の俺の顔は誰にも見せられ無いほど見っとも無いものだろう。
そう思い、苦笑する俺に直は背を向けたままで

「…もうっ、卑怯者っ」

と吐き捨て、車から降りて行った。


成人式の会場に向かう直の姿をサイドミラーで眺めながら取り出した煙草に火を
点ける。
既に『layla』は終わり、別の曲が流れ始める。
流れ始めた曲は『change the world』

チェンジ・ザ・ワールド―世界を変える―か。

どうやら俺はとことんエリック・クラプトンと縁が有るらしい。

目を閉じ、紫煙を深く吸い込む。

流れる歌詞に耳を澄ます。

―君の世界の太陽になる―か。

俺の世界の太陽は直だ。
そして、俺の世界を変えたのも直だ。
俺の世界の全ては直を中心に回っている。
『layla』は思い出になり、今度から二人の間に流れるのは
『change the world』になる。

男は恋をするとロマンチストになるのかもしれない。

そんなことを考えながら俺は二本目の煙草に火を点けた。












Layla,you got me on my knees
‘レイラ、跪いて頼むよ,

Layla,I’m beggin,darlin,please
レイラ、ねぇダーリンお願いだから

Layla,darlin,wont you ease My worried mind
レイラ、ダーリンこの悩める心を楽にしてくれ’






■おわり■