… コットンキャンディ …










カーテンの隙間から差し込む太陽の光に目が覚めた。
心地よい疲労感にベッドの中でまどろむ。
腕の中の愛しい恋人はまだ夢の中らしい。
あどけない寝顔の目尻に残る涙の跡に一人苦笑する。

どうかしてる…

出張で三週間、顔を見れなかっただけなのに普段の自制はどこへやら気が
ついた時には年下の恋人の体を貪るように抱いていた。

行き過ぎた快感は時として苦痛になる。
際限なく与えられる快感に何度も昇りつめた薫は最後には意識を朦朧と
させていた。

「…高校生じゃあるまいし」

静かに呟き、まだ夢の中の恋人の額に口付ける。

「…う…ん…」

起こさないように気を付けたのに筈なのに。
少し身じろいだ後、ゆっくりと飴色の瞳が開かれ、俺を見つけると嬉しそうに
抱きついてきた。

「ごめん、起こしたね」

優しく抱き返し髪を撫でる。

「良かった、夢じゃ無かった」

「夢?」

「…うん。修が帰って来る夢、何回か見たから」

まいった…、完敗だ。

他の人間から言われるどんな賛辞も薫の駆け引きのない無邪気な言葉には
敵わない。
他人の言葉でここ迄、幸せになれることを俺は薫から教わった。

髪に額に瞼に唇で愛しさを伝えてゆく。

「修、くすぐったいよ」

腕の中には綿菓子のような笑顔を浮かべる恋人。
蕩けそうな幸せの中で触れるだけの口付けをした後、俺は薫の首筋に顔を埋めた。
さっきより少し強い力で細い体を抱き締める。

「今日はこのまま、ずっと薫に甘えていようかな」

少し笑みを含んだ声で薫の反応を楽しもうと囁いてみる。

「いいよ。いつも僕が甘えてるから今日は僕が修を甘やかせてあげる」

上から聞こえてくる声は一点の曇りもない優しさで溢れている。
十歳以上も年の離れた恋人に全ての感情をコントロールされ、ここには只の
恋する男が一人。
薫と出会う迄のゲーム感覚で恋愛を楽しんでいた俺はいない。
しかし、こんなに暖かい気持ちになれるなら只の男も良いかもしれない。
俺はそんな事を考えながら俺の人生を変えた愛しい恋人の腕の中で、
もう少しこの甘い時間を味わう為に静かに目を閉じた。






■おわり■




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