… call you … 7






洋平は嘘つきだ。

薄明るい部屋のベッドの上で俺はあまりの恥ずかしさに両腕を顔の上で交差させて顔を隠そうとした。
なのにそれすらも許してもらえなくて。
俺の腕は洋平の手で優しく解かれた。

「……や…」

解かれた手の指に洋平の指が絡む。
洋平は俺に宥めるような優しいキスをした。

「…千裕、ゆっくり息をするんだぞ」

その言葉の後に絡めてた指が離れ、足が掲げ上げられる。
自分でも見たことないような場所にまで、洋平の唇が触れて、今まで感じたことのない感覚を俺に
くれる。
その初めての感覚に訳が分からなくなって我を忘れ、恥ずかしい声を洩らし、泣いてた俺は朦朧と
していた頭で頷いた。
だけど、次の瞬間に訪れた衝撃に俺は洋平に言われた言葉も忘れ、息を止めた。

嘘つき。


「…っ!痛い…っ」

さっきまで入ってた指とは比べものにならない圧迫感にその衝撃をどう表現していいか分からなくて、
俺は痛いと口にしていた。

「…ごめんな千裕」

反省してるような声で謝りながらも洋平は止めてくれない。
ゆっくり、ゆっくり洋平が俺の中に入ってくる。

「…っ…ようちゃ…っ」

経験したことのない苦しさに俺は強がりも忘れ、子供の頃の呼び方で洋平の名前を呼んでいた。

「…千裕」

俺の名前を呼ぶ、洋平の声も少し掠れてる。

「……ようちゃ…ん」

恥ずかしくて瞑ってた目をゆっくりと開ける。

「…今、その呼び方は反則だろ」

困った顔で笑う洋平は俺の額にキスをする。

「…あ…っ…」

その洋平の顔がかっこよくてもう少し見ていたかったのに、俺自身に絡んだ洋平の指が動き出したせいで
俺は顎をのけ反らせた。

「…あっ…ぁ…やっ」

苦しさの中に快感が混ざり込む。
苦しいのに気持ちいい。
そんな訳の分からない感覚に足が震えてくる。

「…怖い…ようちゃっ…ん」

「…千裕、大丈夫だから」


洋平は嘘つきだ。

少しも大丈夫じゃない。
苦しくて、なのにおかしくなりそうなくらい気持ちも良くて、訳が分からない。
子供の俺には強すぎる感覚に頭の中が混乱してきて、俺は結局、洋平の動きが止まるまで涙を流しながら
夢中で洋平の名前を呼んで洋平の体にしがみ付いていた。





















何もする気がおこらないくらい疲れきった俺の体を洋平は温かいタオルで丁寧に拭いてくれてる。
そのタオルの優しい感触と温かさに疲れきっていた俺はうとうととし始めた。
少しずつ瞼が重くなってきて、さっきまで洋平を受け入れてた場所にタオルが触れても抵抗することも
出来ない。

「……いや…」

それでも俺は明るい部屋で恥ずかしい場所を見られてることに耐えられなくて残ってる意識を掻き集めて
太股に置いてる洋平の手を握った。

「安心しろ、もう何もしないから」

優しい声で言われて、手をゆっくり外される。
違う。
何かされることを心配してるんじゃなくて、恥ずかしいからだって言いたいのに、どんどん眠くなってきて。
俺は口を開くことも出来ないまま、瞼を閉じた。
































ゆっくりと目を開けた時に見たのは優しい目で俺を見下ろしてる洋平の顔だった。
俺が起きたと分かって、更に洋平の目が嬉しそうに細くなる。
その洋平の分かりやすい反応に俺は照れ臭くなって、シーツを鼻まで引き上げた。

「おはよう」

「…おはよう」

シーツにくるまってる俺の額に洋平がキスをする。

「…いつから起きてたんだよ」

照れ臭くて言葉がぶっきらぼうになる。

「30分前くらいかな」

「…起こしてくれたらいいじゃん」

30分も寝顔を見られてたことが恥ずかしくて俺は視線をシーツに向けてぼそっと言った。

「あんまり、お前の寝顔が可愛かったから」

洋平の返事に益々、俺は顔を洋平に向けられなくなった。

「まぁ、昨日の夜のお前の顔の方が可愛かったけどな」

あまりの恥ずかしさに自分の方に顔を向けない俺をからかうように洋平が顔を近付けて来て、俺の耳元で
囁く。

「すけべオヤジ。最低っ」

その洋平の囁きにからかわれたことが悔しくて俺は顔を上げて、洋平を睨んだ。

「…千裕」

なのに、俺に睨まれて反省するどころか洋平は俺の頬に手を滑らすと俺が顔を上げたのを利用して俺に
キスをしてきた。

「…ん…っ…」

昨日あんなことがあったから。
俺は洋平のキスに簡単に声を洩らしてしまった。
いつもより少し長いキスをして洋平の唇が俺から離れる。

「お前、どこかに旅行したいって言ってたよな」

甘いキスの後の突然の話に俺は頷くことも忘れ、洋平を見つめた。
旅行はしたい。
洋平と二人でどこかに行きたいってずっと思ってた。
でも、なんでいきなり旅行の話になるんだろう。

「ゴールデンウィークになったら北海道にでも行こうか」

でも、俺の不思議そうな視線に気付かないのか気付かない振りをしてるのか洋平は話をやめない。

「お前、腕時計も欲しいって言ってたよな。それも今度、買いに行こう。それに…」

“それに携帯も新しいの欲しいって言ってたよな、それも見に行こう”

と、呆然とする俺を無視して洋平はそれに、それにと俺が欲しがってた物や行きたがってた場所、
したがってたことを次々と持ち出しては買いに行こう、遊びに行こうと嬉しそうに話した。
その余りの嬉しそうっていうより、浮かれた様子に俺はベッドの中で呆然と洋平を見上げていた。
洋平は昔から俺に甘かった。
大抵の我が儘は呆れたような顔をしながらも最後には“しょうがないな”と言って聞いてくれた。
でも、今回はいつもと全然違う。
嬉しくってしょうがないってオーラが全身から出てて、それは見てる俺が恥ずかしくなるくらいで…

俺の大好きなケーキを買って来てくれたり、俺の観たいDVDを借りて来てくれたり。
今だってキッチンで洋平は浮かれた様子で鼻歌を歌いながらミルクティーを作ってくれてる。
その洋平の様子に俺は自分が今まですごい思い違いをしてたんじゃないかと思った。

12歳も違うから、ずっと洋平は大人だと思ってたけど。

だけど…

もしかして

もしかして、洋平って

ただの……バカ…?


「ん?俺の顔に何か付いてるか?」

辿り着いた答えに呆然としてミルクティーを持って来てくれた洋平の顔をジッと見た俺を洋平は
不思議そうな顔で見てくる。

「う、ううんっ」

バカかもしれないって思ったなんて言えなくて俺は慌てて、顔を横に振った。

「男前だから見惚れてたんだろ?」

俺の心の中も知らないで俺に洋平が笑いかける。

ずっと、ずっと、スーパーマンだと思ってた。
俺が困ってる時にはすぐに現れて俺を助けてくれる。
洋平は俺だけのヒーローだと思ってた。

だけど…

10年以上が経って、ヒーローはただの単純で分かりやすい恋人に変わった。

俺とエッチ出来ただけでこんなに浮かれるなんて。
なんだか、可愛くて。
俺は我慢出来なくて洋平の隣で思わず吹き出してしまった。

「ん?どうした?いきなり」

突然、吹き出した俺の顔を不思議そうに洋平が覗き込む。
単純でもバカでも、なんでもいいや。
だって、こんなに好きだから。

「なんでもない。洋平のこと大好きだなぁって思って」

不思議そうに俺を見てる洋平の頬に俺はキスをする。
俺からのキスが終わると洋平は俺の体を抱き締めて、俺の唇にキスをしてきた。
ゆっくりと絡む洋平の舌に俺も応える。

長い、長くて甘いキスの後、洋平は俺の耳に唇を近付ける。

「…今日も泊まってけ」

低くて甘い声に俺はうっとりし、洋平の背中に回した腕に少しだけ力を入れると

「…うん」

と頷いた。






■おわり■