… 全ては貴方で満たされる … 5






「いっぱい、遊んできたからじゃないの?」

いつも俺の質問をのらりくらりとかわしてしまう恭介に反撃の言葉を放つ。
可愛くない言い方になってしまったのはこの際、しょうがないって思うことにした。

「遊んできたって、随分、信用が無いんだな」

傷付いた、みたいな言い方をしながらも目は笑ってる。

しかも、否定しないし…


「やっぱり、遊んでたんだ」

「どうだろうな。遊ぶっていうことの基準が分からないから何とも言えないな」

しつこい俺に恭介は涼しい顔をしてサラッと返す。


おかしい

俺はムカついてた筈なのに…


遊んでたってことを否定しない恭介に胸にチクッとした痛みが走る。
自分でわざわざ恭介の過去の話を振っておいてその答えに傷付くなんて、シャレに
なんない。

それにいくら恭介が優しくてもやきもちばかりやいて我が侭ばかり言ってるといつか
呆れられて嫌われるかもしれない。


恭介に嫌われる。


付き合うまではそんなこと考えたことも無かった。
恭介の気持ちを知りたくて恭介に構って欲しくて付き合うまでは必死だった。


でも、今は…

恭介に嫌われたら?

別れようって言われたら?


こんなに恭介でいっぱいの俺はきっと、空っぽになってしまう。

何にも無くなって空っぽになって、消えてしまう。




「お前が俺の過去のことを気にするのは当然のことなんだよ。だって、お前は
 全部、俺が初めてだけど、俺はそうじゃないからな。でも、直…」

俺の不安を見透かしてそれを取り除くように恭介は俺の頬を手で包むと俺の目を見詰めて
言葉を切った。



“でも、直…”



俺は恭介の目を見詰めて言葉の続きを待った。

「今までの恋愛は全て、練習だと思ってる。お前を大切にしていく為の。
 それじゃ駄目か?」

「…練習…?」

「あぁ、お前を満足させる為のな」

「…じゃあ、俺が本番なの?」

「そうだよ。だって、本番は一回しか無いだろう?」


やっぱり、恭介はタラシだ。

だって、俺を簡単に幸せにする言葉をたくさん知ってる。

そして、それをどういう時に使えばいいかもちゃんと知ってる。


「…ずるいよ…」

ボソッと呟いた俺の額にキスが降りる。
額の次に唇に降りたキスに俺は簡単に恭介の手の中に落ちていた。

優しく唇を吸われ、次に舌を吸われる。
何度も何度もされたことのある心地いいキスに頭の芯がぼーとなってくる。

あまりのキスの心地よさに俺は何もかもどうでもいいやって思い始めた…

て、ナニ?この手っ

俺がうっとりとし始めた頃、それは始まった。

「ちょっ!ナニしてんの?!」

腰を伝い、胸まで上がってきた恭介の手に俺は慌ててキスを止めた。

「うん?」

「うん、じゃないっ…ぁ…っ…ん」

胸の手はいやらしく俺の胸を撫で回し始めて。
怒るどころか俺は思わず気持ちいい時の声を出してしまった。

「…信じらん…ない…っ」

さっきまで“練習”だとか“本番”だとか、気障なこと言ってたくせに。
こんなのただのエロオヤジだ。

「…エロ…オヤジ…っ」

「せっかく、練習を積んできたんだからその成果を見せないとな?」


俺はイヤミを言ってるのに恭介はすごく楽しそうで。

本当、信じられない。
さっきまで神妙な顔で殊勝なことを言ってたくせに。
さっきの言葉は訂正。
恭介はタラシじゃなくてエロオヤジだ。
そう、心の中で叫んだけど、もう遅くて。
俺の気持ちいい所を的確に攻めてくる恭介の唇と手にいたいけな俺はタラシ、もとい、
エロオヤジの恭介に又、美味しく頂かれてしまった。





































結局、その日、俺が夕食にありつけたのは夜の十時を過ぎてからだった。

しかも、一人で立てないほど愛されてしまった為に結局、シャワーも一緒に浴びた。

「大人のくせに信じらんない」

初心者の俺に容赦のないHを仕掛けた大人の恭介を非難したけど

「側にいると触れたくてしょうがないんだ。お前が相手だと俺の理性は風の前の
 塵と同じらしい」

学校で昔、習った古典の一節を引用した訳の分からない言い訳を言われた。

そんなのただのエロオヤジなだけじゃんって思って恭介を睨む。
しかし、ぶーたれて恭介を睨んだ俺に返されたのは大好きな恭介の笑顔と

「お前が側に居てくれたら俺は全てが満たされるってことだよ」

っていう言葉で…


俺はそれ以上、何も言えなくなってしまった。

もうっ
やっぱり、恭介はずるい。

ずるいのに…

その言葉が嬉しい俺がいる。
嬉しくて、タラシでもエロオヤジでも何でもいいやって思ってしまう俺はやっぱり、
どうしようもなく、恭介に満たされてるんだろうと思った。






■おわり■






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