… アイシテル …










愛してる―


いつも始まりはその言葉と手の甲へのキスからだ。
そしてそんな甘い言葉と優しいキスから始めるくせに男は途中からまるで命が絶える寸前に
やっと獲物にありついた肉食獣が捕えた獲物に喰らい付くように俺を貪る。

お互いの気持ちを確かめ合ってから何度も身体を繋げた。
なのに男は未だに渇いた喉を潤すように俺を抱く。


『愛し方が分からない』


愛されたい。
愛したい。

でも方法が分からない。

そう呟いた男の顔が声が俺の脳裏に蘇る。
愛されてないと思い込んで生きてきた男は愛に対してまるで知識を持たない赤ん坊のようで。
まるで一から赤ん坊に言葉を教えるように俺は男を抱き締めた。


愛してる。


初めて覚えた言葉を赤ん坊が何度も口にするように男は俺に囁く。


『俺だけを見て欲しい』

独占欲。


『君を誰にも見せたくない』

執着心。


愛にも段階がある。

まず単語を覚えて、その単語を組み合わせて、最後に文章を作る。
愛を言葉を覚える過程に置き換えるなら男は今、単語を覚えたばかりのところなんだろう。

独占欲と執着心という単語はやがて綺麗な優しい文章になる。
そう、きっと素敵な文章になる。































「…そんなすぐ…っ入んない…」

何かに急かされたように俺を貫こうとする男の肩を優しく押し返す。

「…悪かった」

俺を見下ろす男の目に怯えの色が浮かぶ。

「…ばか…」


“嫌いにならないで”


男の目が語る言葉に苦笑し、男の頬に手を伸ばす。

こんなことで嫌いになんてならない。
そう伝えたくて。
男を安心させてやりたくて男の首に腕を回し、自分からキスをする。

「…あんたの指でゆっくり確かめて…」

男の首に回していた腕をほどき自分の膝の裏に入れ足をゆっくりと持ち上げる。
その行為に羞恥心はなかった。

「…大胆なんだな」

苦笑混じりの声は擦れていた。

「…あんただけだから…」

他の人間にはしない。
こんな姿を見せるのはあんただけだ。
俺の言葉の意味を読んだ男は指で俺を愛した。



































「…っ…んっ…」

揺さぶられる身体は男を受け入れ男と繋がっていた。
自分で掴んだ足を俺は更に広げる。
男とのセックスの時に目は閉じない。
何故なら俺の中で動いている時の男の顔は最高にセクシーで俺は男のその顔が好きだからだ。
ずっと男の顔を見ていたい。

精悍で欲の色を浮かべているのに無垢な男の顔。
その自分だけを見つめる無垢な顔に突然愛しさが胸に込み上げる。

男に抱かれるのはこの男が初めてじゃない。
他の男とも関係を持った。

しかし、セックスの最中に相手を抱き締めたいと思ったのはこの男が初めてだ。

そう、抱き締めたい。

色んなことからこの男を抱き締めて守ってやりたい。
誰かを守りたいという気持ちを俺はこの男と出会ってから知った。



































「…はっ…ん…っ」

男の首に腕を絡ませて俺は自分の身体をゆっくりと浮かせては沈めた。

「あっ…!」

あぐらをかいている男は沈んだ俺の腰を掴んでぐっと自分の方に引き寄せた。

狂おしいほどの快感が身体を突き抜ける。


愛しい…


愛しい。

抱き締めたい。

抱き締めて、守る。

あんただけをずっと守るから。

溢れ出した愛しさに俺は男の頬に手を添えて男の顔を上向かせると男の目を見つめた。


「…雄一…愛して…るっ…」

俺の告白に男は泣きそうな顔をした。

あんたが愛が分からないっていうのなら俺が教える。
あんたの名前と愛してるという単語を組み合わせると美しくて優しい文章になることを俺が
教えるよ。


「…愛してる…」


今はまだ単語しか囁けないかもしれないけど。
いつか必ずそれが優しくて素敵な文章になるから。

いつか必ず…

俺と同じように囁き俺の身体を強く抱き締める男を俺は男に負けないくらい強く抱き締めた。






■おわり■




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